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不動産屋さんの占いで家が決まった話

私が初めて一人暮らしをした部屋の話をする。

北海道から上京後、姉たちと一緒に住んでいた一軒家が取り壊されるのをきっかけに、一人暮らしを決意した。生まれて初めての不動産屋での部屋探しを開始。東京の家賃の高さや、「こいつまだ決めねえのかよ」という不動産屋さんの冷たい視線(思い込みかもしれないけど)に四苦八苦しながら、いくつも不動産屋を駆け回る。

姉たちにアドバイスをもらいつつも、部屋探しって楽しいは楽しいけどめっっっちゃ疲れることを知った。

条件で探してもらって、内見、全条件揃っているからはいここに決定!なんてそんな甘くなく、ここはこれがないけどあれがある、ここはあれがないけどこれがある、あれもこれもあるけど家賃がはい高ーい、もしくは駅からめっちゃとおーい、みたいな、惜し物件が多発して、だんだん心も折れてくる。

部屋探しではやっぱり譲れない条件というのをちゃんときっちり決めていかないと駄目なのだと思うけど、私の場合なんだか諦め悪く、そこまで理想も高くないしーと甘い考えでいたらマジで全然良い部屋がない。


そして当たり前ながら働きながらの部屋探し。もうジョーばりに真っ白になりかけていたある金曜日。

姉とよく話していたのは、大きいチェーンの不動産屋さんは皆持っているデータベース自体は同じだから、寧ろ小さい、その街馴染みの不動産屋さんの方が隠し玉を持っているであろうという噂。

それを思い出し、次の日も内見入れていたから、へとへとの金曜くらいは休もうかと思っていたんだけど、もうひと頑張りするかなあ、などと重い足をひきずって、住みたい街の近くに繰り出した。

といってももう夜も遅く、街馴染みの不動産屋さんは軒並みしまっている時間帯。あー、やっぱり無駄足だったか、と思いとぼとぼ歩いていたら一件、謎の店を発見。

不動産屋……? ではあるらしい。外から見ると、上部にびっしり物件紙が貼られていて、中の様子が足元しか見えないようになっている。後、名前がなんとも怪しい(ちょっとダサい)。
でも多分不動産屋だし、まさしく個人でやっているであろう雰囲気だ。しかし、とにかく怪しい。

でも入らないことにはどうにもならないし、同時にその怪しさになんとなく惹かれたのもあった。普通の不動産屋さんをいくらまわっても、もう見つからないのかもしれないし。このくらい怪しい方が、物件持っているかも、と。

ガラっと入ると、黒髪眼鏡の妙齢の女性。Iさんという。声のトーンはかなり高く、小鳥が鳴くように笑う人だった。

私、早速、これこれこういう部屋ありませんかと、常套句を告げる。

Iさん、顔を顰め、なかなかないわよ難しいわよ~と言いながら物件情報を探り始める。

その時点で、あんまり期待できないな……と思ったらなんとそんなことはなく。幾つか私が今まで見てきたちょっと条件より家賃オーバーな物件情報を幾つか出しつつも、「あ、でもここなら結構仲の良い大家さんだから、あたしが言えば家賃を条件内まで下げられるわよ」とかさらっと言いだす。おいおい神がここにいたよ、と最早安心しだした私であった。しかし。

I「ねえ……あなた生年月日は?」

急に聞かれて、戸惑いつつも答える。するとIさん、メモを取り始めると同時にぶつぶつ話し始め、よくわからない透明の円定規みたいなものを取り出す。

I「実はあたしこういうのやっててね」
どういうのだよ。と言いそうになったんだけど、よくよく聞くとつまり六星占術をやっていると。不動産屋であると同時に占い師なんだって。はあ。何その打ち切りマンガに急に出てくる奇抜なキャラクターみたいなスペック。

そして、頼んでもいないのに私の星と方角を占い出した。まあいいやほっとこう、良い部屋さえあれば……と思ったらあれ、だんだん曇る表情。そして言い放つ。

I「あなた、駄目よ」

私「はい?」

I「このへん(私の希望地)に住んだら不幸になるわ」

私「はい????」

そして、さっきまでいい感じに出してた物件情報を全部しまいはじめる。えええ、と止めようとするも、だめよだめよ、とやめてくれない。神かと思ったら思わせぶりの悪魔か。混乱。

詳しく聞くとどうやら、私が住んでいる場所(前の家)から見て、今から住もうとしている地域、が真北にあたると。

I「北ってのは犯罪者の行くところよ!」

何言ってんだこいつ。と言いはしなかったけど間違いなく思った。

そもそも、私職場がこっち(北)なんですけど。と言ったら、さらに慌てだす。じゃあすでにあなたは毎日北に通っているってこと? まずい、まずいわ、転換しないと! と。

そのへんで私もう結構力尽きていた。なんてったって自分がそれまで時間かけて探してきていた地域自体を全否定され、家が決まるどころか、探すやる気すらそがれたのだから。

私「この辺自体が駄目って、もう……私、明日もこの辺で一つ、内見入れてるんですよ」

I「……それはどこ?」

そこで、次の日内見予定の物件情報を見せる。それはその日ネットで見つけて、とりあえず、と即次の日見ることになった物件だった。

それを見て、

I「あ、あたしこの物件知ってるわ」

私「そうなんですか(ナゲヤリ)」

I「うん。えーっと(地図を見る)たしかこのへんよ。……え、待って」

私「?」

I「ここよ」

私「??」

I「あなたここにしなさい。見て。ここなら、ぎりぎり北じゃないわ!」

NIK(何いってんだこいつ)はさらに喉元まできたんだけど、言われた通り見てみたら、確かに、きれーいに北からちょっとだけ外れている。しかしそれでいて私の希望地域で、まだ見には行っていないけどどうやら条件もなかなか。さらに、後押しとして、Iさん的に私が見に行こうとしている物件には別部屋があり、そこも空いていると。そしてそこは、私の条件より家賃が2000円オーバーするんだけど、出窓があって日当たりがよく、明らかに私が見に行こうとしている部屋よりいいと。そこで、

I「ここの不動産屋さんも知り合いだから、私の名前だしてみて!そんで2000円下げてってお願いすればいいのよ!」

もう急展開過ぎてよくわかんなかったんだけど、疲れと空腹と心折と親切と希望、に一気に襲われ、もうなんだか、

多分私、この部屋に住むんだろうな、とその時点で思い始めていました。

結果次の日、内見でそちらで不動産屋さんにお会いし、即座にIさんの話して2000円さげてーなとお願いし、結果その通りになったのです。

部屋自体の契約を交わした不動産屋さんも、夫婦で営んでおり、非常にほのぼのした良い人たちで、家を決めたその日、「お昼時ですから」とおすすめのランチ情報をわざわざ印刷して渡してくれたりした。

ということで二つの不動産屋さんにお世話になったのが、私の初めての独り暮らしの思い出。

運気やらなんやら上がった下がったはしらねえですけど、それから約4年がたちました。今は引っ越したし、職も変わった。今のところ、北には通っておりません。

ちなみにIさんには家決定後もお礼を言いに一度会いにいき、ひたすら人生観とかについても占ってもらったり、男の子紹介してあげるわよ的なお話もしてきたりしました。それ以来会ってなかったんだけど、一度Iさんから手紙が届いており、開いてみると「その後どうですか? 近況が聞きたいのでそろそろいらっしゃいよ^^」的な内容だった。ああ、変な縁。

もう私はあそこに住んでいないんだけど、また占ってもらいにいきたいかもしれないなあとたまに思う。占いをすごく信じている、というわけではないんだけど、部屋探しに疲れ切った私をさらに疲れさせたあげく、なんだかんだで点と点をつなげてしまったのは結構面白かったな。疲労と、タイミングと、何より縁です、縁。


#はじめて借りたあの部屋

もっと書きます。