ジョブ型導入前に考えるべきこと①
これまで人事担当者としてジョブ型導入事例の収集・分析、関連セミナー聴講などを通して、前提で考えるべき論点をまとめてみた。最後に答えが出てくることを祈って筆を取る。
中堅企業の人事担当者として、来年4月からの短時間労働者及び有期雇用労働法の影響は大激震である。余りに大きな課題なので、考える土台がしっかりしていないと会社の命運を左右するのは間違いない。
セミナーには中立的なものであっても、必ずジョブ型を紹介している。ジョブ型が叫ばれている理屈は、非正規(ここでは短時間労働者及び有期雇用労働者を言う)社員と正規社員(フルタイムで無期雇用労働者を言う)を比較されて都度給与差について突っ込みがあるならば、前もって正規社員をジョブ型にしておくこと、すなわち非限定社員から非限定の部分を明確に説明できるようにして限定化することにより、比較しやすくしておくのが良いという考え方だ。この非限定の部分については、職務内容(当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)・人材活用の仕組み(当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情)の相違という言葉で表している。これらを明確に表すことによって、今まで契約書に記載されない暗黙の了解事項について明らかにして、賃金の差の理屈とするという流れだ。それらを明確に示すのは契約書ではなく、職務記述書というシートで表される。
ところが、この明らかにするという作業にはかなりの労力を要する。頑張って作ったとしても職務内容が変更になる都度職務記述書は書き換えなければならない。また、記載されていないものはやらなくて良い。間違って上司が頼むようであれば仕組みが壊れてしまう。チームワークで進める場合のイメージは難しい。同僚の為にサポートを行う、気を利かせる、シナジー効果を、なんてことは給料に反映されない。人事考課項目で必ず入ってくる協調性というところは評価が難しくなる。当然人事考課を考え直す必要も出てくるだろう。人事評価項目での代表的な3つの評価、いわゆる業績評価、能力評価、行動評価の中で行動評価を職務記述書に表していくしかないが、その部分は社員としての規範の部分の為、職が違っても同じ記載になる傾向があり、金額に差が無いとなればモチベーションをもってチームワークを頑張ろうとはなりにくいのではないか。
また、ジョブ型こってりでは社員の成長性に難がある。固定された職務をどのようにすれば能力が向上し昇給させるか、についてが難しい。その為成果給を組み合わせて行うケースが多いのだが、そもそも成果を公平に評価するということは昔から難題なのである。個別に置かれた状況により同じ数字の成果でも価値が異なる。その修正がなされなければ公平とは言えないし、そもそも間接系の管理職の客観的な数値での成果は現場の売上・利益には劣って見える。その辺が派閥の温床の元ともなり得る。それは今後AI等の進歩により、間接系であっても客観的な成果が表せられるような未来を祈りつつ、今の時点では諦めないと議論が進まない。良い評価を得るには上司を抱き込むというか上司とコミュニケーションを厚くしないといけないのは継続されるだろう。成果給を非正規にも導入する企業(三菱ケミカルなど)もあり、機会の提供という点においては、非正規でもその機会を活かせる土壌が正規社員と同様に用意できるのであればそれは良い仕組みと言える。