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イサム・ノグチ 発見の道とクロワッサン

日時指定チケットを予約した時から、天気予報が気になりました。雨を降らせる空の色は、嫌いではありません。
ただ、東京都美術館は駅から少し距離があるため、晴れたほうが嬉しいぐらいの期待はしていました。週間天気予報では、梅雨入りのスタート。雨の予想でした。

予約していた11時過ぎ、東京都美術館前に到着しました。綺麗に晴れ、初夏の日差しは少し強めですが、豊かな緑が続く道は木陰が多く、風もあり、気持ち良く歩くことができました。

一番最初に迎えてくれた景色です。
あかりのインスタレーションをバックに黒い太陽が光を集めていました。
圧倒的な存在感に、足が止まりました。よく使う表現ですが、この感覚に会うために私はここにいると思いました。とても強く。

私は国内外の美術館巡りが趣味です。
好きな美術館の名前は、いくつでも挙げることができます。
そこに展示されている作品ももちろんですが、美術館そのものの佇まいに惹かれます。国内では、香川県直島にある地中美術館。海外では、ニューヨークにあるイサム・ノグチ庭園美術館
風景が記憶にくっきりと残っています。
特にイサム・ノグチ庭園美術館では、作品から放たれた彼の想いが、空間全体に漂い、点在していました。感動や刺激ではなく、着地点の見つからないイサム・ノグチの悲しみを全身で受け止めた記憶があります。

2枚の写真はいずれもニューヨークにあるイサム・ノグチ庭園美術館です。

広島原爆ドームのモニュメントとして制作された作品は、最も美しく、力強い彫刻だと思います。
イサム・ノグチの母親が米国人だったことで、結局この作品は採用されませんでした。彼が常に自身のアイデンティティに悩み続けていた片鱗をこの彫刻に見た気がします。

「不思議な鳥」

「あかり」インスタレーション近影

今回の企画展は、空間と彫刻は一体であると考えていたイサム・ノグチの哲学に相応しい展示方法を考えたとパンフレットに書かれていました。一部を除いて写真が自由に撮れるはからいも有り難く感じました。

第1章 彫刻の宇宙

「あかり」インスタレーションと共に展示されている作品の間を縫うように歩きながら感じたのは、高揚感です。
ニューヨークの庭園美術館とは異なり、太陽が降り注ぐことも、作品の向こうに樹々や空が見えるわけでもありません。自然光をシャットアウトした黒を基調とした大きな空間は、さながら漆黒の宇宙。150灯の大小様々な「あかり」は宇宙に点在する星を一同に集め、光を放つ仕掛けに見えました。ネーミングセンスにも惹かれます。

第2章 かろみ(軽み)の世界

赤い作品は、プレイスカルプチェア、
遊具としてデザインされたものです。
色のない空間に置かれた赤は、強く心に残ります。色にはある意味、破壊力があると思います。同じスペースに展示していた全ての作品を押しやってしまうほどのインパクトが、この作品にはありました。

芸術家でありながら、プロダクトデザイナーでもあったイサム・ノグチは、手の届かない高みにあった自身のアート作品を購入可能な工業製品として、世に送り出しました。
その代表的なものが、「あかり」シリーズのスタントやペンダントライトです。会場で流れていた映像の中で、
「だって僕の作品は高すぎて買えないでしょう?でも工業製品だったら、僕の作品を買うことができるよね?」と笑顔でフランクに話していました。
アートを特別なものにしない。芸術に対する固定観念を取り払ってくれた発想であり、行動にイサム・ノグチに対する尊敬の気持ちがさらに強くなりまさした。

「あかり」と同じく家具もプロデュースしています。このソファも彼のデザインです。

第3章 石の庭

こちらは撮影不可のスペースです。
香川県高松市牟礼町にある牟礼の石彫が展示されていました。
牟礼のアトリエに隣接する庭が、そのまま東京に移築されたイメージです。
屋外ではなく、自然光でもない展示法は作品をより近くで、きちんと向き合うことができました。
もちろん、いつか牟礼のアトリエにも
足を運びたいと思います。

石彫に使われている石の一部が展示されていました。石と対話し、時に戦い、征服し、愛することで魂が吹き込まれるようです。

「あかり」シリーズの照明器具は、その殆ど全てが入荷待ち状態でした。
和紙にグレーをさっと一刷けしたシェードのランプが欲しかったのですが、やはり在庫なしでした。
クリアファイルを2種と一番心惹かれたポストカード1枚を購入して帰りました。

話は飛びますが、私はクロワッサンが一番好きです。色々なお店のクロワッサンを食べ比べてランキングをして楽しんでいます。
私が人生で一番美味しいと思ったクロワッサンは、意外かもしれませんがニューヨークのイサム・ノグチ庭園美術館のカフェで食べたものです。
2度目に行った時には、そのクロワッサンは置いていませんでした。
今となっては、幻のクロワッサン🥐
そのことを思い出し、美術館の帰りに
クロワッサンを買って帰りました。

美術館で過ごす結婚記念日も良いものです。

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