小川さらさ

ただの読書感想文です。

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最近の記事

神谷美恵子『生きがいについて』

 のっけから長文の引用で恐縮だが、『生きがいについて』は、非常に印象的な書き出しではじめられている。  この、冒頭2段落目の問いかけこそが、本書をとおして検討される課題である。とはいえ、本書はこの問いに明確な答えを差し出すものではない。そうした知識人らしい「押しつけがましさ」を著者は丁寧に退け、つぎのように述べる。「ただこの生きがいという、つかみどころのないような問題を、いろいろな角度から眺めてみて、少しでも事の真相に近づきたいとねがうのみである」(8)。いろいろな角度、す

    • 天国の天使が語ること、あるいは『かくれた天使――神様につかわされたダウン症の子――』について

       天使になった赤ちゃんが、地上での生活を振り返って語るとしたら、何を・どんな風に語るのだろうか?   『かくれた天使――神様につかわされたダウン症の子――』は、1950年8月26日に生まれたロビン・エリザベスが天に召されて神様の腕の中に抱かれながら、地上で過ごした2年間に、彼女の家族が経験した様々な試練や心の揺れ動きを描写した作品である。ロビンはダウン症を患ってこの世に生を受けた。  生まれたての赤子がダウン症だとわかったとき、その子を孤児院に入れるように、とロビンの両親は

      • 『あなたが消された未来』

         妊娠中期の超音波検査には、楽しい思い出があった。第一子の時は性別を教えてもらえた。エコー検査とは違って、超音波検査ではいつもより時間をかけてじっくり赤ちゃんの様子を見ることができる。お腹の赤ちゃんは元気に動き続けている。  もしも性別が分かったら、行きつけのケーキ屋さんでケーキを買おう。女の子ならイチゴのケーキ、男の子ならチョコレートのケーキだ。上の子には大好物のフルーツを買って、今夜はみんなでお祝いしよう。  そんな楽しい想像をしながら、赤ちゃんの様子を見ていられることの

      神谷美恵子『生きがいについて』