朝が来る
卵を割る。フライパンで踊る透明は白を帯びる。黄色い瞳が泣いている気がする。やり切れなくなってそれをフライ返しで割る。血がドロリと溢れていく。そして固まっていく。食パンに挟んで隠してしまえ。僕はそれにかぶりつき、この個体を維持する。生きる意味なんてないのにな。この虚しい朝は何回も訪れる。僕が生きている限りこいつを殺して食って生き長らえる。この鳥は産まれたかったのかも、僕は産まれたく無かったのにも関わらず、産まれたかったかもしれない命を焼いて割って、現実から目を逸らすようにパンに挟んで見ないふりをする。僕は何回これを繰り返すんだ。全部水で流し込む。行ってきます。
朝の通学路は空気がよく澄んでいて、車も少ない。さっき殺した命を忘れて、深呼吸をして僕はいい朝だと思う。歩道橋の上から見える通学、通勤する人々。この人達も皆、命をエネルギーにして命を燃やしている。でも僕はごめんねなんて思わない。豚も牛だって食べるし、卵も割る。僕はそんな現実から目を逸らし、白い粒で覆って飲み込む。血となり骨となり肉となる。そして僕らは揉みくちゃになってこの日常に溶け込む。誰かが操っているこの街で、支配に気付かずに今日も夜と戯れる。子供は大人に、大人は子供にタイムトラベル。そして決まって朝は肉を焼き、卵を割る。そして明日もそんな朝が決まってやって来る。僕らはそんな日々を過ごしている。悲しい事がこんなにも美しくなってしまうこの日々になんて名前を付けようか。おやすみ。
絶え間ず前に進む僕たちは、無駄に街を発展させる。それはもうノスタルジーに浸たる間もないくらいに。WiFiと談笑が飛び交うこの街で何かに気付く小学生。少し泣いている気がした。ポッケに手を突っ込んで大人になった気でいる中学生。キスをしたくらいで浮かれる高校生。大人の真似事大学生。本当は何も知らない大人。流されてきたから何も知らない。外側が言う幸せだとか決まり事だとか、何も疑わず大人になった人達はみんな口を揃えて「幸せになりたい」だとか「人生は楽しむものだ」頭が腐っちまっていて、正しくて正しくてたまらない。朝の駅。ホームレスの残り香を残すホームのベンチに腰をかける。この鼻につく香りのせいか、僕がいつか誰かに訴えかけてもほっとかれてしまうのではないのだろうかと考えてしまう。電車は来て僕を現実に運ぶ。さぁ、朝が来たよ。今日は快晴。そうだ!今日死ぬか!なんて馬鹿なことを考える。きっと明日も卵を割る。歩いても走っても寝転んでも、朝は来る。来てしまう。
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