集まれ!怪談作家に投稿した怪談2「吊松」

※前書き

VTuberの榊原 夢さんの企画である「集まれ!怪談作家」に投稿した怪談です。企画の詳しい内容や結果は動画リンクから。
ちなみに、こちらの企画で3位に選ばれました。ありがとうございます。

※本文

 私の通っていた小学校には、校長室が2つあった。3階の職員室の隣と、2階に一つ。
 もちろん校長先生は1人しかいないので、使っているのは1つだけ。実際には2階の校長室が使われていて、3階の方は「校長室」のプレートが掛かっているだけで物置となっている、旧校長室だった。
 ある年の3月、来年度から新しく先生が転任して来るということでロッカーを増やさなければいけなくなり、それではせっかくだからと職員室の隣にある旧校長室をロッカー室にすることになった。
 既に春休みに入り生徒もいないので午後から、手の開いた若い先生2人と教頭の先生の3人で旧校長室を片付けることになったそうだ。

 旧校長室のドアを開けるとカーテンが閉めてあるため部屋の中は暗くてよく見えず、かなりカビ臭い匂い充満して、かなりの間開けられていなかった様子だ。
 手探りで電気のスイッチを入れると、幸いすぐに電機は付いた。見てみると、古い教材やらすっかり使われなくなった備品が所狭しと押し込められており、どれもこれも埃を被った状態だ。
 若い先生の1人がなんとか物の間を縫って窓の方へ行くと、あまり埃が舞わないようにゆっくりとカーテンを開けて窓を開けた。陽の光と新鮮な空気が入り幾分かカビ臭いのもマシにはなったが、それでもなんだか薄暗く空気が澱んでいて、あまり気分のいい感じではない。
 ある程度想像がついていたとはいえ、思っていたよりも骨が折れそうたと思い、教頭先生からため息が漏れた。

「まぁ、とりあえず邪魔なものから出していきましょうか」

 教頭先生の言葉をきっかけに三人で片づけを始めた。何かの行事で使われた工作物やすっかりくすんで見にくくなった地球儀、以前に使われていたであろう教材の入った段ボール箱や何でこんなものがあるのだろうというものまで、様々なもの出てくる。物置、というよりはゴミ置き場といった様相だ。
 ただ物の数こそ多いものの、幸いなことにあまり大きいものや重いものが無かったため片づけは順調に進んでいって、夕暮れに時には旧校長室は既に空になっていた。

 ひとまず片づけが終わったものの、長い間掃除もろくにされていなかったため部屋の中はひどい状態で、窓から夕陽が射す中、3人がかりで掃除をすることになった。バケツや裸像金やらを持ってきて三人で掃除をしていると、不意にガラガラっと扉を開ける音がした。
 教頭先生が「おやっ 」と思って反射的に振り向くと、同様に扉の方に目を向ける2人の若い先生の姿が目に入った。別に変ったところはない。思わず、3人とも目を合わせた。
 扉の音がしたのは1回。元々扉は閉まっていたから、今は開いてあるはずである。三人とも扉の近くにいないし、リアクションを見るからに扉を操作したのは部屋の中の人間ではない。
 隣の職員室の扉の音を聞き間違った可能性もあるが、それにしてもすぐそこから聞こえてきたように思える。しかし、他に考えられる可能性はない。

 教頭先生が「今、扉を開く音が」と言いかけたところで、不意に若い先生の一人が「あっ」と声を上げた。目線を追って窓の方を見ると、他の二人からも「うっ」と声を上げた。
 夕日に照らされたカーテンに、くっきりと人の影が浮かび上がっていたのだ。思わず三人が固まり、ほとんど同時に慌てて旧校長室から逃げ出した。

 結局、旧校長室をロッカールームにする話は無くなり、今でも物置になっている。あとから分かったことだが、かなり昔に当時の校長先生が、今でも校庭にある松の木で首を吊ったそうで、それ以来、奇妙なことが起きるということでそのままになっていたらしい。

 カーテンに映った影のように、3階の旧校長室を除くような格好で、首を吊ったそうだ。
 なぜ首を吊ったのか、どうやって首を吊ったのか、一切不明だという。

・あとがき

前回のやつ

その他の怪談


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