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卵色の月

この表現に会ったのは

いつもの待合だった。

2週間くらい前から通うこの待合室。

彼女の日課は

本を読むことだった。

待合ではぼんやりしていた。

大画面のテレビがいつもついている。

誰も見ていないテレビ。

音だけがなんとなく流れている。

家族と来ている人は会話をし

1人で来ている人はみんな携帯画面に釘付けである。

ぼーっとするのが疲れた頃に

テレビの下の本棚に目をやる。

横に広い大きな本棚の1番上の左側

なんとなく黒っぽい背表紙に目がいく。

52ヘルツのクジラたち/町田そのこ

この人の本は読んだことがない。

でも52ヘルツのクジラは知っている

迷わず手に取ってから

来るたびに続きを読んでいる。

ザックリとなんとなく想像はしていた内容

ストーリーは読まないとわからないが

孤独という点ではあっている

タイトルから読み取れることは

孤独なのは1人ではないということだ

クジラたちがそれを意味する。

たちというのは複数である。

彼女はこの本の中に出てくる描写が好きだ。

映像がよく色まで浮かんでくる。

卵色の月は彼女の中では本当に卵色だった。

黄色いようなクリーム色のような

なんだか卵色。

その後に続く文字のやわらかいというひらがなが

卵色の月をもっとやさしい色にした。



今日も続きを読もうと

本棚に手を伸ばす

読み始めようと本を開くと

いつもと違うことに気がついた。

しおりを挟んだページを開くと

しおりが本からはみ出ていた。

あれ?

彼女がしおりを挟んだ場所とは

なんだか違う。

それでもしおりはここにはさったんだっけ?と

文字を追う。

やっぱり話が違う気がする。

パラパラとページを少し戻ると

タイトルがひとつ進んだところに

そのしおりはいた。

彼女ははみ出たしおりを挟んだままにして

自分悩みかけだった場所から読み出す。

するといつも誰も見ていない待合のテレビで

アンパンマンが始まった。

そういえば先週もアンパンマンはやっていた。

驚いたのは本を読んでいると

本の中に

パンのヒーローという事で

今テレビでやっているヒーローが描かれていた。

なんとタイムリーなんだろう。



そういえばこのヒーローは前に一度

本の中に登場している。

その時もアンパンマンは流れていたのだろうか…?

そんなことをぼんやり考える。


はみ出たしおりまで追いついた。

続きはまた書こう。



ひとつ気がついていたことがあって、知らんぷりをしようとしていたことがある。

この本の中には彼女の嫌いな漢字が度々出てくる。

これが嫌いという感情なのか?

よくわからない。

2文字

以前にも同じことがあった。

それは違う漢字だったけれど

初めて嫌いな漢字ができた時に、漢字を嫌いになることがあるなんてことさえ思ったこともなかった。

漢字が嫌いってなんだか面白い。



これは2週目なのだろうか?

そんなことを思う。


人生2週目。

生きてるのに?

少し笑ってしまう。


でもいいじゃん。

この本も出来事も

彼女に必要だから起こっているのだから。

楽しめばいいのだ。


ソファが混み合っていたので

少し高くなった子供の遊び場の

畳のへりに座り本を読んでいると

後ろに3歳くらいの男の子がお父さんとやって来た。

お父さんの声は優しい。

子供は無邪気な声でお父さんに問いかける。


そんな中

子供への愛なんて程遠い

真逆の世界で目を覆うような内容を読み進めている

この空間のギャップがなんとも狭間の世界だった。

本の世界と現実世界が同じ時間軸で流れてる。

本というのは面白いものだ。


また明日続きを読もう。

彼女と同じ本を読んでいるのが誰なのかちょっと気になる。

どんな人が52ヘルツのクジラたちに

興味を持ったのか?


しおりはそのままにして来たので

今日はページを覚えてきた。

あまり本を読めない彼女が読める本は珍しい。


明日になったらしおりはまた違う場所にいるのだろうか?

楽しみがひとつ増えた。






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