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ストリップ資料けんさん4−2「まいど…日本の放浪芸 一条さゆり 桐かおるの世界」(小沢昭一が訪ねた道の芸、街の芸)CD版

 前回の続きとなります。前回のさわりを書くのも長くなってしまうので、詳しくは「ストリップ資料けんさん4−1」を戻って見てください。

 CD3枚目−1。小沢昭一氏は一条さゆり嬢の特別出演のステージに再び訪れた。千葉県「木更津別世界」。10日間興業だが、挙げられては迷惑が掛かる、と8日間で切り上げることにしたさゆり嬢。本日がラスト公演。舞台中を隠し録音。
 さゆり嬢は「今日でラストとなりました」とお客様に向かって話しだすと、急に華やいで話しだすお客一人。「僕は一条さんのファンにはなれないの。だってお金ないから通えない」等掛け合いがしばらく続く。ちょっと調子に乗っちゃっているお客さんかな、とも思うが、素直な感想を語っていて嫌味がない。
「今日まで脱がないでごめんなさい。おっぱいも見たいでしょうけど」というさゆり嬢の言葉に「おっぱい見たい!もっと!」の掛け声。さゆり嬢は豊満なボディで魅惑的な姿です。
「でも許してね。立ち直った姿も見てもらいたいです」「私は二度と裸になれないの」「何にも脱がない私にこんなに応援してくれてありがとうございます」
さゆり嬢はお客様にお礼を述べ、また、レコードデビューの話をし、
「収益は施設に寄付します」「社会のお役に立ちたいんです」と、アカペラでその新曲を歌う。
−2
さゆり嬢の半生を小沢氏が語る。さゆり嬢は施設で育ったが、自分の子供も施設へ入れなければならなかった。男に騙されお金を貢ぎ、自分では育てられなかった。ストリップ劇場でデビューし、「菩薩様」とまで言われたのには、作家駒田信二氏が立て続けに小説を書き発表したことによる。小説で話題になれば、マスコミで話題になり、警察にマークされる。
 そして楽屋での二人の会話。
「私ね、本当は女らしさを知らないし、世間を知らない。だから捕まってよかった」
「もう踊らないし、その気もない。自転車でところてんまで売って歩いたのよ。もう悔いはないんです」
「脱がない私は、お客様にどんなサービスができるかと思って考えたんです。正月だしお酒配ったら喜ぶかなって。飲まない人にはお菓子とか果物とかね」
さゆり嬢は自腹でアクトを考えてサービスしていた。
 そして再びステージ。
「私、お酒が入るとついサービスしちゃうから、今日まで我慢してきたけど、今日最後だから飲ましてもらお!」
アクトしながらちょいと1杯。そしてベットショー。
もちろん脱いでいないのだろうが、迫真の悶え声はCDでも艶かしい。
あの時の声、顔、雰囲気が一致して色っぽい人がサイコーな「とこ上手」だと私は感じている。さゆり嬢はそういう人だったんだろうな、と思う。
さゆり嬢のステージを確認し、小沢氏は劇場を後にする。その靴音。何か満足げな、はてまた後ろ髪を引かれつつのような音に聞き入ってしまう。靴音なのにね。

CD4枚目−1
 ここは桐かおる氏が経営する千葉県「木更津別世界劇場」
場内のステージとかおる氏のインタビュー。
従業員のオープニングマイクが録音されている。
昔は従業員の個性によって、マイクパフォーマンスがさまざまだったので(基本の台本はあるが)、これは貴重な音源。文字起こししてみる。

「精進しよう日も無きに似て、有情都は思うまい。至聖親鸞聖人のお言葉でありますが、当館に、当、木更津別世界劇場にご来館頂きまして、誠にありがとう御座います。それでは本日の出演メンバーを紹介致します。洋風ベット、アンヌ.ハラ。本格フラメンコヌードショー、ルーシー.サタン。桐とうじょう、うじょうかずみ、桐かおる、春日トミ(拍手)。葵ショー、葵京子、葵かつこ、葵ゆうり。最後に登場致しますのは、浅草駒太夫さんであります(拍手)」

 すごいメンバーです。これは正月か何か、特別興行であろう。私は思わず声をあげてしまった。「あ、ルーシー、サタンさんだ!駒太夫ママだ!」私が劇場をやっていた時にお逢いしている踊り子さんの名前。さらに親鸞聖人まで出てくるオープニングが凄い。

 そして桐かおる氏のインタビューが続く。かおる氏は根っからのレズのタチ。小学生の頃から番長的であったという。高校時代は「たかり」ばかりで遊び回っていた。いわゆる「ズベ公」。そうなれば当然警察のお世話にもなる。ある時、護送中に逃げ出して、友達の家に逃げ込んだ。そのお父さんが旅回りの役者で、それがきっかけで芸界へ入ったそうだ。元から運動神経が良かったし、ダンスクラブも通っていたかおる氏は、フロアショーのダンサーとなり、そしてストリップ界へ。
「もうヌード1本や。遊ばない。カタギの仕事は考えつかない。楽屋の味、雰囲気、忘れられないんですよ」
「ストリップは硬派の仕事。そういう人(そういう考えの人)は、この仕事入って伸びている」
「ストリップ劇場が好きなんですよ。休みの時、観に行くんです。田舎の寂れた所、温泉場なんか回るんです」
「女の子ですか?それは宝物です。抱けば倒れるような子が好きなんだけど。でもそのくせ虐めたくなるんですよ」
 小沢昭一氏のインタビューというか、雑談っぽい会話に、かおる氏は次々と答え、話していく。
 時折かおる氏の舞台音楽が流れる。「ある愛の歌」「夕焼けこやけ」。この「夕焼け〜」は、落語家松鶴家千とせのバージョーン。意外な曲構成。ベットからの立ち上がりらしい。
「(ベットは)ポーズっぽく見せているけど、それがいかに真実味を帯びているか、という所、立ち上がりに勝負がかかっとるんです。、、そう、立ち上がって腰がガクッとなって歩けない。そこまで雰囲気、緊張感を持っていくから、常に違うし、曲に合わせられないんですよ。演技であって演技でないように見せる。そこが難しい。私もその時によって違うしね。だから彼女にも(相手の春日トミ)、音楽に合わすな、と言ってるんやけどね」

付録の図録より

−2
 お相手の春日トミ嬢について語っている。舞台では無表情のかおる氏と対照的で、大きな声で喘ぎ、「足をバーっと開き」体をくねらせ悶絶する。
「(彼女が)17歳の時から9年になりますね。何も知らずに一緒になったから、男は知らないですよ。そう、私だけやね」
小沢氏は「そりゃ勿体無い。僕が願いたいぐらいですよ」と反応している。もちろんこれは世の男たちの意見を代弁しようというのだろう。

 曲は呪術的な雰囲気となり、かおる氏の愛撫が執拗に繰り返され、時にサディスティックである。二人とも「芸」というより憑き物がついたように没頭している。かおる氏は能面のように醒めているが、獲物を狙っているような熱気があり、トミ嬢は痙攣しながら体をそらし、のたうち回る。
 小沢氏は「神懸り」だと感じた。しかし楽屋にはケロリとして戻ってくる。「やっぱり芸ですか?」
「ええ」
「でもまだまだ本当じゃないよね。もっとアクセントつけにゃ本当に見えん」
どこまでもストイックな桐かおる氏であった。

 私はCDでものめり込んでしまった。「何か」伝わるのである。緊張感か。その息遣いは「エロ」というより、やはり「何か」である。
(いや男性が聴くと違うのかも)

 そして小沢昭一氏は「近頃ひょっとすると(ストリップ劇場は)なくなってしまうのかな、という思いが芽生えてきているのですが、どう想いになりますでしょうか」
という言葉で締めている。
 残念ながらこの言葉は当たってしまった。劇場そのものはもちろん存続しているが、かつてのような、「様々な演目が観られるショー空間」ではなくなってしまった。

 木更津別世界劇場は1979年(昭和54年)閉館した。巷では「本板ショー」が真っ盛りな時。この時代、時代に乗って「本板ショー」を入れた劇場は温存し、警察の厳しい手に抗えなかったり、真っ当な意向の劇場は無くなってしまった。とても皮肉である。でも残った劇場はまた本来の姿に戻り(戻らざらなくなり)、SMブームや、アイドルブームを呼んだのである。

 このCDは宝である。小沢昭一氏も鬼籍に入られて、真のストリップファンがいなくなってしまった。
もし、図書館に所蔵されているようなところがありましたら、ぜひ、聴いてみて下さい。劇場を知っている方ならニヤリとする箇所が満載です。

http://ag-factory.sakura.ne.jp/




 


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