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パフォーマンスいわれ27 サディスティックサーカス19 2019「怪談 奈落」

2019年のサディスティックサーカス。
 有難いことに私は毎年ステージをさせていただいているので、前年のサーカスが終わるとすぐに、「次は何をしよう」と漠然と考え出す。そして年が明け、春頃にはいくつかの提案を出せるようにしている。

そんな春先に、サーカス本部から連絡があった。
「今年は現代物の怪談、というのはどうです?面白い人がいるのです」
 と相談があった。その方は、現代のリアル怪談を取材し、語り部となる吉田悠軌氏。私は来るものはこばばない。自分が思ってもいなかったことを提案されるのは、むしろ面白い。
 ただ気になることは、初めての方なのに、顔を合わせて打ち合わせができないことだ。私の思う切腹パフォーマンスと、リアル怪談が合うのか、などの不安はあったものの、そこはサーカススタッフが風通しを良くしてくれるだろうと、信頼していた。私の良し悪しも全てわかってくれてるスタッフだ。だからこそ私は全力を注いでショー作りができる。

怪談話は吉田氏が書きおろす。9月7日の本番。6月に入っても台本は上がらなかった。でも、産みの苦しみがあるのは重々承知している。私は待った。
 7月に入り、1稿めの台本が届いた。私は読んだとたん、イメージがあふれていた。これは面白い!リアル怪談と切腹がどう結びつくかと思っていたが、「妊娠」というキーワードで見事に結びついた。
 あらすじは、「ウブメ」というキーワードがあった。死霊の一つである「ウブメ」は、妊娠しながら死んだ女性や、出産時に死んだ女性が化ける姿であるという。とある地方のスナックで聞いたというお話。偏屈な老人は廃墟の工場で、14、5歳の姿を見た、という。その少女のお腹は大きくて、赤い靴を履いていたそうだ。その少女を目撃した老人の過去は。その少女はなぜ老人の前に現れたのか、、、。

 私が14、5歳役というのは無理を感じるが、これは「お芝居」という形式で完成するのではないかと思った。照明さんにも協力してもらい、しっかりした内容にしたい。なので各位氏には「これはお芝居です」と何度も書いた。
 物語を読むほどに、少女の人物像がイメージされる。そしてステージの絵柄が頭に浮かんでくる。

*衣装など
 この物語で一番苦労したのは「妊婦のお腹」。座布団や毛布をお腹に巻く、というのはよくある手だが、自前で持っていくわけにもいかないし、動けば形が崩れる。
 膨らむもの、、、。風船はどうだろう。試してみるも、一部だけが丸く膨らみインチキくさい。もっと何かないか。
 季節が夏だったことが幸いした。気にしながら街をぶらついていると、ふと目に止まったビーチボール。これだ!持ち運びが便利だし、空気の入れようで形は自由になる。早速、大小のビーチボールを買い、試してみると、果たして大成功。私の体にあったお腹の膨らみができた。

少女の服は、昭和三〇年代の貧しいイメージ。アッパッパー的な。そしてポイントとなる「靴」。本来なら小学生が履くような靴なのかもしれないが、フェティシュなショーであるため「ピンヒール」とする。ボロ着と赤のピンヒールの違和感ある組み合わせは、まさしく「怪談」的かと思った。
 この赤の9センチピンヒール。ネットで買ったのだが中国製であった。日本で今、ピンヒールを作っている靴屋は少数なのだろう(つまり売っていても高額だということ)。

*音について
 物語に書かれている音の表現で金属を打つような音「トンカントンテン」(鉄階段の音)。私はこの音をリアルな音が欲しいと思った。リアルな恐ろしさが演出できるかと。しかしタイミングの問題など、完全な芝居方式ができないため最終的には断念した。

 BGMですぐ思い浮かんだのは、1970年代後半のオルタナティヴミュージックの走り、「ザ・レジデンツ」というグループの音楽(目玉のジャケットで有名だった)。アルバムタイトル「エスキモー」の名の通り、現地の民族音を取り入れたアルバムだ。ちょっと怪奇的にも聞こえる楽曲は、まさにこの作品に合っていると直感した。この中の「誕生」という曲は出産を意識した曲で、エスキモー族の中では男社会。女子が生まれれば殺される、ということを意識した曲。この曲を中心に組み立てていくことにした。


 この曲を選んだことも重なり、妊娠した少女は自力で赤子を産み、すぐさま殺した、という仕草にした。そして自分も自害すると。

*演出
 登場シーン、物語の始めで思ったことは、映画的な回想シーンが欲しいと思った。妊婦姿を演じたいが、どこに挿入しようか、と思案していたが、冒頭シーンにしようと決断。ビーチボールで膨らんだ妊婦姿の女の子。物語の予感を提示する。でもこの場合、顔の存在はいらないのではないか。「誰か」は関係ない。イントロダクションの怪奇的な雰囲気を作り上げる。
 そして物語の中に登場する「穴」。これを私は照明で作りたいと思った。穴の存在が明確になった方が面白いと思ったから。特にラストでは、「朝」と「穴」の関係が重要だ。本来このイベントでは、細かな照明の注文は禁止である。しかし、この物語ではここの部分があるかないかでは、大きな違いがあると思ったので、スタッフにお願いし、照明さんにも協力してもらうことを懇願した。

正直、この切腹は悲壮美ではない。しかし、新しい物語の提示として、私は新鮮な心持ちで挑んだ作品で合った。

最終的には時間調整で、ショートバージョンとなった物語だが、舞台上の吉田氏の語りは上品で、リアリティに満ちていた。そして想定外のストーリーと展開に、皆、意表をつかれ、大好評となった。今でも語られているほどである。

このシリーズは今後もあるかも、、よ。

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