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テスラという企業について①

テスラ(Tesla)が造る自動車は他の自動車OEMに対して1世代から2世代進んでいると言われています。

一応私も技術者ではありますが、テスラの技術には脱帽せざるを得ません。

今回はテスラが起こしたブレークスルーについての記事になります。

テスラがもたらした革新

テスラの出発点は初代ロードスターですが、その次に上市したModel Sが電気自動車に革新をもたらしたと考えています。
それは、バッテリーの搭載技術の革新によるバッテリー容量の拡大、それに伴う航続距離の拡大です。

当時の電気自動車の課題としては、航続距離が非常に短いというものがありました。
Model Sは大量のバッテリーを搭載することで、電気自動車の問題点のひとつの航続距離を伸ばすことに成功しました。

初代Model Sのバッテリー

当時のテスラは特別なバッテリーではなく市場に流通しているPanasonic製の18650サイズの円筒リチウムイオン電池を大量にバッテリーケースに敷き詰める事でバッテリー容量を拡大しています。

しかし、このバッテリーケースのサイズは非常に大きくなってしまうため、車の床下一面にバッテリーを搭載する必要が出てきます。

BOTTOM VIEW
初代Model S  Patentより

上図は初代Model Sの特許図ですが、赤枠がバッテリーケースになります。今となっては、電気自動車の大半が上図に近い構造となっていますが、当時は業界の常識からすると考えられない構造となっています。

テスラはこの搭載方法で電気自動車の問題点の短い航続距離に対してブレークスルーを果たしました。

では、もう少しテスラが生み出した技術について説明します。

テスラの生み出したバッテリーパック搭載技術の効果

POLE側突試験

最初に断っておくのですが、テスラ以外の自動車OEMの技術が低いことを説明するつもりはないです。私自身も、量産車を世に出すことの難しさを知っておりますので。

まず、バッテリーを車の床下一面に搭載する際に問題となるのは、POLE側突時のバッテリー保護になります。
以下、北米規格で説明します。

POLE側突試験とは電柱を模した円柱に対して、時速32km(20mph)で車の側面をぶつけるという試験モードになります。
※北米での規格はFMVSS No.214

そして、電気自動車はFMVSS No.305という要件を満足させる必要があります。この、No.305というのは衝突中や衝突後に有害な電解液のこぼれや感電を起こしてはならぬ、という要件になります。

では、テスラ以外の他の電気自動車はどのようにして、POLE試験でバッテリー保護を達成したのかを説明します。

初代リーフ 技術資料

上手は日産 初代リーフの技術資料ですが、青点線のフロアフレームの間に黄色のバッテリーパックを搭載しています。この構造は日産だけの搭載方法ではなく、ホンダや三菱も同様の構造をとっていました。

初代リーフ POLE試験後

初代リーフの試験後の写真が上図になりますが、サイドシルがフロアフレームまで大きく変形しています。しかし、バッテリーパックまでに変形を終えており、バッテリーパックを保護できる構造となっていることが分かります。

一方、テスラ Model Sの試験後の写真を見ると、違いが一目瞭然となります。

Model S POLE試験後

試験後のバッテリーパックの写真だと、無傷のように見えますが、実際は多少変形していることが分かります。

Model S POLE試験後 バッテリーパック

バッテリーパック自体は多少の変形が発生していますが、試験的には問題なく星5つという結果になります。

初代リーフの試験結果と比較すると、Model Sは短い距離(ショートストローク)で衝突エネルギーを吸収している構造となっていることが分かります。

このPOLE試験でのショートストローク化技術がテスラが電気自動車にもたらした革新性の一つになります。

テスラのバッテリーパック保護技術の詳細

テスラの特許を確認することでどのようにしてPOLE試験を成立させているかが分かります。

上図に示しているようにModel Sではサイドシルの断面内にPOLE衝突吸収用の部品を設定しています(緑枠の部品)。
この部品はアルミ押出し材で作られており、押出し断面を車体外側から潰れやすくする設定をすることで、衝突エネルギーを吸収するように設計されています。

赤矢印から入力が入ると押出し材が変形することで衝突エネルギーを吸収するのですが、その際に押出し材をフロアクロスメンバーが変位を押さえる構造になっています。

この設計思想はModel Sだけでなく、Model X, Model 3, Model Yにも引き継がれています。

バッテリーパック側の写真をもう一度見ると、変形が生じている部位にクロスメンバーが設定されていることが分かります。
(赤矢印の方向に設定されている骨がクロスメンバー)

POLE試験はPOLEを衝突させる箇所はレギュレーションで決まっているので、その位置に合わせてクロスメンバーを設定していることが分かります。

ただ、このバッテリーパックの設計思想はModel 3やModel Yには引き継がれませんでした。この点については別の記事にまとめようと思ってます。

最後に

簡単ではありますが、テスラの技術内容についてまとめてみました。

この技術は非常に有効で、Model S以降に他のOEMから発売される電気自動車はほとんどがテスラの設計思想を模倣しています。

これはテスラが特許をオープンソース化しているのも要因としてありますが、電気自動車の航続距離という問題に対して非常に有効な技術をテスラが生み出したということが言えると思います。

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