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自分を投げ出す前に。 『自分疲れ ココロとカラダのあいだ』を読んで

「自分疲れ」。このタイトルを見て「わかる」と思った人は、きっと仲間。
自分の持病に、あるいは性格に、境遇に「もう、疲れたよ」。投げ出したくなる気持ち、自分の身にも覚えありです。

本書の著者、頭木弘樹さんは国指定の難病「潰瘍性大腸炎」に罹患しています。13年間の闘病生活を救ったのは、数々の文学作品でした。

本書引用される文学作品の言葉がどれもが身にしみる。例えばこちら、
山田太一さんの作品集からの言葉。

「私と体が入れ替わったら、一日と持たないと思う」

『山田太一作品集19 夢に見た日々』(大和書房)

わかるよ!

そうやって、いびつな形で自分を鼓舞してみた経験、私にもある。

頭木さんは、「自分疲れ」の和らげ方のヒントとして心と体との「あいだ」をいったりきたりすることを挙げています。

心と体がつながっているのは周知のことだけど、そのつながりはグラデーション。心が落ち込むときは、呼吸に意識を向けるなど体の動きにフォーカスすることで心も整ってきたりする。

一方、持病が悪化したり痛みがある場合は、その症状にばかり焦点を当てるとつらさが増しがち。症状をまじまじ観察するのは、医師などの専門家に任せて心のうちに閉じこもるのが得策だったりする。そのステップを踏んでようやく、自分の目を、からだに、症状に、向けられるんですよね。ここでやっと健康的な生活スタイルを目指して能動的に取り組んだりもできる。

それもまた、行きつ戻りつ、したりする。それでいい。そう思えると、すこし楽になるはず

ちなみに、引用で笑ってしまったのが、三島由紀夫が太宰治のことを指して

「太宰のもっていた性格的欠陥は、少なくともその半分が、冷水摩擦や器械体操や規則的な生活で直される筈だった」

『小説家の休暇』(新潮文庫)

と語った部分。そういう極端でマッチョな考え、これまた自分に思い当たる部分があるからこそおかしくて笑ってしまったのだ。

こうやって共感したり笑ったりしているうちに本の世界とつながり、自分疲れが癒えたりする。これが実学とは異なる、文学の力ですよね。


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