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なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(3)

なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(1)に記した通り、ヨーロッパでは、一般消費者が「sake」に対して持つイメージが良くない。それに加え、なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(2)に記した通り、多くの日本酒は船便でヨーロッパへ輸出されており、日本からヨーロッパまでの長い旅路の間、ずっと船に揺られて品質が落ちてしまっている可能性が高い。さらに、輸送費が高いため、一般に販売される際の商品値段が、日本と比べてもずいぶん高くなってしまうという現状がある。

なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか、少し理解いただけたかもしれないが、残念ながら問題はこれで終わりではない。この記事では、日本酒が小売店で販売される際や、レストランで提供される際の問題点についてまとめる。

◆ヨーロッパでは、純米酒以外は偽物?

ヨーロッパでは、純米酒でないと「偽物だ」という説明をしているディストリビューターがいるために、ソムリエや小売店の店主が一般の消費者に対して、美味しい日本酒の見極め方として、醸造アルコールなどの「添加物」が使用されていない純米酒であることが大切だと伝えることが少なくない。このような間違った情報を流布しているディストリビューターが、著名なシェフやソムリエと繋がっているという不運な現状があるために、訂正して正しい情報を伝えるということが難航している。

日本で醸造された日本酒の統計を見てみると、純米酒、特に純米吟醸酒(純米大吟醸酒を含む)の醸造量が年々増えてきている一方で、本醸造酒の醸造量は減ってきている。とはいえ、純米酒と純米吟醸酒が全体の醸造量に占める割合は、30.4%(2018年度)。誤って作られてしまった偏見から、ヨーロッパでは純米の日本酒しか売れないとなると、日本で醸造されている日本酒の7割は、仮に純米酒や純米吟醸酒よりも美味しかったとしても、輸出に相応しくないと判断されかねない。

◆ヨーロッパでは、日本酒の保管方法もめちゃくちゃ

日本酒はウォッカのような蒸留酒だと勘違いしている人は、日本酒は長期保存できるものだと思い込んでいる。日本へ旅行した際に購入した日本酒を、何年も開けずに大事に保管しているという話もよく聞く。

高級なワインは数年(時に何十年も)熟成させてから飲むことから、ヨーロッパでは値段が高い日本酒も、ワインのように熟成させるのではないかと、日本酒についてある程度理解している人も、なんとなく思っていることが多い。古酒を除き、日本酒はなるべく早く飲んだ方が良く、製造年月日から一年以内を目安にするといいですよと伝えると、心底驚く人が後を絶たない。

とあるミシュランの星付きレストランでさえ、開封後、数日間は常温で置きっぱなしにしていただろうと思われる大吟醸を、もっともらしく提供するのだから、美味しい飲み方や正しい保存方法はあまり知られていないようだ。ディストリビューターは売ることに一生懸命で、保管方法等について細かく伝えていないことの表れかと思われる。

◆ヨーロッパでは、レストランで提供される日本酒のセレクションがいびつ

日本食料理店ではなく、日本食材を取り入れたインターナショナルな料理を提供している高級レストランが扱う日本酒は、なぜかいつも似たり寄ったりだ。シェフやソムリエは日本人ではなく、彼らが選ぶ日本酒は、華やかな香りが特徴の薫酒や、すっきりとした味わいの爽酒はほとんどなく、生酛や山廃に代表されるコクのある醇酒や、長期熟成された熟酒が多く採用されている。

なぜか。考えられる理由は2つある。

1つ目の理由は、なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(2)で記した通り、薫酒や爽酒は、常温の船便での輸送に耐えられない可能性が高いからだ。高温や振動によって、味や風味が落ちてしまうため、過酷な輸送にある程度耐えられるような日本酒が、ヨーロッパに入ってきているのだと想像できる。

2つ目の理由は、日本酒の味にあるのではないだろうか。私が酒バー・レストランを経営していた時は、一般的なワインやその他のお酒に比べて、日本酒は水のようで味がないという意見をよく聞いた。洋風の濃い味の料理に合わせるとき、水のような日本酒では、料理に負けてしまうのかもしれない。だから、日本酒の中でも、深い味わいの醇酒や古酒のような熟酒が選ばれるのであろう。

おそらくこのような理由から、ヨーロッパのディストリビューターは、常温での長期輸送に耐えられ、特徴的な味わいの日本酒を積極的に輸入しているのだろう。もしかすると、そもそもシェフやソムリエは、薫酒や爽酒を試飲する機会もないのかもしれないし、試飲したとしても輸送中に風味が変わってしまったので、採用されなかったのかもしれない。

白ワインのように華やかで爽やかな日本酒も、ヨーロッパの方々に楽しんでいただきたいと思うところである。

◆日本人のディストリビューターも、もっと積極的に営業するべきだ

ヨーロッパのディストリビューターに比べ、ヨーロッパ在住の日本人ディストリビューターはとても控えめだ。有名シェフたちのSNSを見ていると、ヨーロッパのディストリビューターたちは、試飲会を頻繁に開催して、シェフに日本酒を売り込む取り組みに積極的だ。残念ながら、日本人ディストリビューターが同様の活動をしているのは、ほとんど見ない。

このように、正しいとは思えない日本酒に関する情報が伝達され、日本酒の間違ったイメージが作られ、日本酒は雑に保管されてさらに味や風味が落ち、偏った種類の日本酒しかヨーロッパでは広まっていない。

だから、ヨーロッパで日本酒を売るのは難しい。

3記事に渡って、問題点をまとめてきたが、日本酒のヨーロッパ輸出に未来がないと言いたいわけではない。現時点での問題点を明らかにした上で、次の記事からは、これらの問題点を踏まえて、どのように日本酒を売っていけばいいのか、私なりの提案をまとめたい。