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なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(2)

なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(1)では、ヨーロッパの一般的な消費者が日本酒に対して持っている間違ったイメージをまとめ、なぜ日本酒が売れない環境にあるのかを説明した。この記事では、日本酒を輸出する際の最大の難関である運送と、ヨーロッパでの日本酒の値段についてまとめる。

◆日本酒には過酷なヨーロッパへの道のり

ヨーロッパのディストリビューターの多くは、船便で日本酒を輸入するようだ。しかも常温で。日本からヨーロッパまでの道のりを考えると、船は赤道を2回も通過することとなる。コンテナのどこに日本酒が積まれるかにもよるが、運が悪ければ、直射日光にさらされ、外気温以上にコンテナが熱くなることもある。そんな状態で、約3ヶ月も船に揺られることとなる。

リーファー(冷蔵)便であれば、高温にさらされることは避けられるが、それでも3ヶ月もずっとガタガタと揺られて来た日本酒が、日本を出発した時と同じ風味であるはずがない。せっかくの美味しい日本酒も、こうしてヨーロッパに到着するまでに味や風味が落ちてしまうのだ。

もちろん飛行機を使えば、このような問題は回避できる。しかし、船便と比べると、輸送費がかさむので、空輸を選ぶディストリビューターは少ないようだ。ただ、搾りたての日本酒を美味しいままお客様に楽しんでいただきたいと考えると、やはり空輸以外の輸送方法は相応しくないように思われる。

◆日欧EPA(日本・EU経済連携協定)の効果

2019年2月に発効された日欧EPAにより、日本からヨーロッパへ輸出する清酒の関税が即時撤廃された。日欧EPAが発効されて、日本酒の値段が下がり、ヨーロッパで買いやすくなったのではないかと考える人もいるだろう。

日欧EPA発効前、清酒にかかる関税は、1リットルあたり0.077€(約10円)だった。関税撤廃により下がったのは、四合瓶1本あたり、たったの7.5円。つまり、日欧EPAによる関税撤廃は、日本酒の値段には影響を与えなかったと言える。

日欧EPAでは、輸出入手続き等を簡素化することも合意されたため、その点では日本酒を輸出しやすくなったのかもしれない。ただ、ヨーロッパで販売される日本酒の値段が下がるほどの効果があったかは、まだ定かでない。

◆安い日本酒でもヨーロッパでは高級酒の値段

日本酒は四合瓶で5000円を超えるものはほとんど存在しない。インターネットで検索してみると、2021年4月現在、一番高い四合瓶は、山形県の楯の川酒造が醸造した「楯野川 純米大吟醸 光明山田錦」で、税込22万円。今までどの蔵元でもできなかった精米歩合1%を達成したという日本酒だ。

しかし、このように高額の日本酒は稀で、四合瓶で1万円を超えるものは数えるほどだ。一般的には5000円を超えると、高級日本酒として紹介されており、四合瓶の日本酒は、1000円から3000円ぐらいが大半を占めている。

四合瓶は720mlなので、ワインのボトル(750ml)とほぼ同じ容量である。ベルギーで近所のスーパーへ行くと、安いものなら3€(約390円)ぐらいから、ワインが買える。自宅で日常的に嗜むワインとしては、20€(約2600円)ぐらいまでが選びやすく、30€(約3900円)を超えると、誕生日や記念日など特別な日に飲む少し高めのワインというイメージだ。

スパークリングワイン(スペインのカヴァやイタリアのプロセッコ)は6€(約780円)、シャンパンは13€(約1690円)程度から販売されている。日本でもよく見かけるシャンパンの銘柄だと、35〜45€(約4550〜5850円)ぐらいの値段だ。

ワインの特徴としては、近所のスーパーで安く手に入るワインもある一方で、値段の上限はキリがないというところである。スーパーでは、100€(約13000円)を超えるワインはほぼないが、ワインショップならば、その何十倍もの値段がついたワインも売られている。

日本で売られている値段と同じ値段で、ヨーロッパで日本酒を売ることができるならば、ワインと同じような値頃感である。しかし、ヨーロッパへ輸入するためのコスト(ほぼ輸送費)を乗せると、日本酒の値段は日本で販売している価格のほぼ倍、もしくはそれ以上になってしまう。

ヨーロッパで販売されている安い日本酒は、四合瓶で15€(約1950円)程度から、精米歩合が60%以下となると、35€(約4550円)以上で販売されている。小売店の価格で、100€(約13000円)程度の値段がついている日本酒も少なくない。

つまり、ヨーロッパにおける日本酒の価格帯は、一般的に家庭で楽しむワインよりも高く、ブランド力のあるシャンパンと同じような価格帯になってしまう。日本酒のことをよく知らない消費者が、果たしてその「よくわからない」アルコール飲料に、シャンパンと同じようなお金を出すだろうか。

なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(1)で書いた通り、アルコール度数の高い、まずい、下衆だと思われている日本酒が、飲みなれたワインよりも高い値段で売られていたら、買おうと思う人はあまりいないだろう。

だから、ヨーロッパで日本酒を売るのは難しい。


(注)1€ = 130円として計算