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ヨーロッパで日本酒を売るには(2)

ヨーロッパで日本酒を売るには(1)では、日本酒に対するネガティブなイメージを払拭できそうな日本酒をタイプ別に紹介した。また、日本酒の価値を理解してもらえるようなストーリー作りの重要性についてまとめた。

この記事では、なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(3)でまとめた通り、日本酒に関する正しい情報が伝わっていないという問題点を解決するための提案をしたい。正しくわかりやすい情報を伝えることで、日本酒についての正しい理解を促し、日本酒が正しく管理・保管され、美味しい状態で日本酒を楽しんでいただける環境を作ることができる。

◆日本酒の味や風味を説明する共通言語を確立する

ヨーロッパで日本酒を説明する際に、種別(純米大吟醸酒、吟醸酒、本醸造酒、普通酒、合成清酒など)に頼って説明することをやめるべきだ。確かに(純米)大吟醸酒や(純米)吟醸酒は、吟醸香がすると表現されたりして、香りの方向性が似ているのかもしれないが、だからと言って全ての「純米大吟醸酒」が同じような味や風味というわけではない。よって、このようなカテゴリー分けは、日本酒の味や風味を表現するためには、ほぼ無意味だ。最近では、このような特定名称酒を名乗れる日本酒であっても、あえて明記しない蔵元も増えてきており、種別にこだわらず、味と風味を評価するという動きがあるのは好ましい。

日本で販売されている日本酒のラベルを見てみると、種別以外に、日本酒度、酸度、アミノ酸度を記載して、その味や風味を伝えようとしているものがあるが、それぞれの数字が持つ意味を理解できない消費者には、これらも無意味な情報である。例えば、日本酒度がマイナスであれば甘口、+8以上は辛口と定義されているが、アルコール度数や酸度等とのバランスで、実際にその日本酒を飲んだときの味わいが変わってくる。よって、このような数字は、目安として使えるかもしれないが、その日本酒の味や風味を説明するためには不十分だ。

唎酒師の資格認定団体である日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)は、日本酒の味と風味を4つのカテゴリーに分けた。

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引用:日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)「日本酒の香味特性別分類(4タイプ)」

実際にヨーロッパのお客様に日本酒を説明しようとすると、たった4つのカテゴリーでは日本酒の味や風味を詳細に説明できないという壁にぶち当たる。例えば、薫酒というカテゴリーの日本酒でも、りんごのような甘酸っぱい香りなのか、華やかなフローラルの香りなのか、バナナのような甘い香りなのか、柔らかな口あたりなのか、すっきりとした喉越しなのかによって、合う料理も変わってくるし、一番美味しく感じる温度も違う。香味特性別分類も日本酒の味や風味を説明するためには、ほとんど使いものにならないのだ。

ヨーロッパのソムリエに日本酒をテイスティングしていただくと、まるで味に関する詩を聞いているかのように、表現豊かな感想を聞くことができる。日本酒を説明する際には、香味特性別分類を使うよりも、独立行政法人酒類総合研究所作成のフレーバーホイールを参考にして、味や香りをより繊細に表現できる語彙力を身につけると、ソムリエと同じように表現力豊かに味わいを語れるのではないかと思う。

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引用:独立行政法人酒類総合研究所「清酒のフレーバーホイール」

◆美味しく飲んでもらうための工夫

なぜヨーロッパでは日本酒が売れないのか(3)で記載した通り、日本を出発した日本酒が置かれる環境は厳しいことが多い。日本酒を取り扱っているディストリビューターやソムリエ、小売店の販売員も、どのように日本酒を保管すべきかについて、あまり知らない。日光を避けて、なるべく涼しい場所(できれば冷蔵庫)で管理するという、当たり前のように思えることでさえ、できていない店も多い。

ヨーロッパの方々が日本酒が美味しくないと思う大きな理由のひとつは、飲む方の口に入る前に、すでにその日本酒の味や風味が落ちているからだ。

では、どうすればいいか。

最も効率の良い方法は、保管方法について、ラベルにわかりやすく記載することだ。開栓後の保存方法や飲み切る期間の目安についても、ラベルに書いてあれば、販売員の説明や購入者の記憶に頼る必要がない。

日本酒をあまり知らない消費者が日本酒を選びやすくなるような工夫も必要だ。先に紹介したフレーバーホイールなどに登場する語彙を使って、味や風味の簡単な説明や、相性の良い料理の情報、美味しく飲める温度帯をラベルに付け足せば、日本酒を選びやすくなるだけでなく、購入した日本酒をより美味しく楽しんでいただけるヒントとなるのではないだろうか。


と書いてきたが、どんなにたくさんことばを並べるよりも、一口飲んでもらうことの方が、日本酒の魅力を伝えるには効果的だ。だからこそ、初めて日本酒を口に含んだときの美味しさが最大となるような工夫が必要なのだ。

美味しい日本酒を、美味しいまま世界へ届けること。
その美味しい日本酒を、一番美味しく味わってもらえるように提供すること。

そんな理念を胸に、これからも日本酒の魅力をヨーロッパで伝えていきたい。