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旧友との再会

ほんの1時間だけれど、旧友と再会。私と彼女が別れた時、彼女の髪はずいぶん長かった。再会した今日、彼女は短く髪を切っていた。当時は薬の副作用で常に手元が震えていた彼女だった。寂し気な横顔は変わっていなかったけれど、でも、彼女の手元は今震えてなんかいなかった。十年ほど前に半年ほど入院した後、ずいぶん落ち着いたんだよと話してくれた。
でも彼女の両腕は、見事に傷痕に覆われていて、私の心臓はぎゅうと鳴った。リストカットにもひとの数だけ色合いがあるのだなと、彼女の両腕の傷痕を見つめながら思った。私の傷痕とはまるで違う。でも、私の傷痕にも彼女の傷痕にも、間違いなく、私たちが今日まで辿ってきたそれぞれの日々が刻まれていて、だからこそ私の心臓はぎゅうと鳴ったんだ。歴史だな、と思った。私も彼女も、まさかこんなところまで生き延びて来るとは、あの当時思ってもみなかった。ふたりして数年後には死んでしまっていたいよねと当たり前のように語り合っていた。でも。私たちは今生き延びて今日ここで再会している。

 ねぇ、あれからどうしてた?
 だいじょうぶだった?
 つらかったでしょう?
 しんどかったよね?

―――そんなことたちは、私たちは一切語らなかった。
ただ、ここ数年に起こった出来事で思い出深い自分の身の回りの出来事だけを、こんなことあったあんなことあったと語り合った。まるで、今日までのしんどかった時間はもう、今ここで出さなくてもいいよね、と言わんばかりに。
今生きて在ること、今生き延びてここで再会できていることを、私も彼女も、ありがたいと思っていたんだと思う。別れた後、また会えるよ、と彼女からすぐさまLINEが来た時、そう思った。そうだ、たとえもう会えなかったとしても。あっちとこっちで、同じ時間を互いに生きて在ること、それだけでもう十分、尊いよね、と。

別れ際彼女が、相変わらずの涙目で、縁を赤くさせているのに気付いた。軽くハグして、ありがとうね、またね、と手を振り合った。

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