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約束の記憶 第三章 10話

更新時間が遅れてすみません。

この物語はフィクションです。

ここまでのお話はマガジンからどうぞ↓
https://note.com/saorin11/m/me6fc5f2a8b10


恵が目を覚ますと美味しそうないい香りがした。

ベッドサイドテーブルに、お粥が置いてあった。
いつのまに、部屋に入ったのか、全く記憶にない。

飲まずに置きっぱなしにしていた薬は、おかゆのそばにあった。

夫が料理をしたところを見たことないけど、私のために作ってくれたのならどんなに嬉しいだろう。

起き上がってみると、頭痛はなくなって、体も軽くなっていた。

リビングに行くと、ソファに座っていた夫が一瞬ビクンとした。

「め‥恵、もう起きて大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫」

夫の隣りに座り、夫の顔をじーと見た。

「おかゆ、温め直してこっちに持ってくるよ」

居心地悪そうにしている夫が立ち上がろうとした。

「いいから、ここに座って」

夫が私の顔を見た。
妻の私を見る目とは違う。
そんな目で私を見ていたんだ。

「あなた、どうして私と結婚したの?」

長い間聞きたくて聞けなかった。
いや、怖くて聞けなかったこと。
夢の中なら何を聞いてもいいよね。

夫は目を見開いて、何をどう言おうかしばらく考えていた。
そして、意を決したように向き直ってこちらを向いた夫は、凍るような冷たさを放っていた。

「覚えていなかったんじゃなくて、とぼけいたのか。どうせ全部見てたんだろ」

自分が悪いくせに
吐き捨てるように
怒鳴って

私が悪いことをしているように思わせる。

過去の私なら、これ以上怒らせないように、聞きたいことも聞けず、だまってた。

もうだまらない。

「質問の答えになってない。なぜ結婚したの?って聞いてるの。世間体のため?」

「あぁそうだ」

ズキッ

「誰でもよかったの?」

「いや」

「愛してたの?」

「あぁ」

「どうして子どもができなかったの?」

「子作りはしてないだろ」

「そうよ。私たち結婚しても夫婦生活はなかった。でもこの先あるの。でも子どもはできなかった」

「何の話をしてるんだ。未来でもみたのか?」

「そうよ。未来がわかるの。もしかして、避妊の手術したの?」

夫はしばらく私の顔を見て、いきなり吹き出した。

「どこまでおめでたいんだ。知らない方が幸せなのに。知りたいなら教えてやるよ。おまえはワクチンを打ってないつもりだろうが、すでに打ってるんだよ」

「何を言ってるの?」

頭の中が真っ白になって、体が震えてる。

「昨日倒れて栄養剤だと言われて注射打たれただろ。あれはワクチンだ」

「嘘よ。そんなこと勝手にできるわけないじゃない」

「それが俺ならできることぐらいわかるだろ」

いや、そんなことない。絶対嘘だ。

「いつもは注射打ったりしないやつがやらなかったか?」

そういえば、内科ではない見慣れない先生だった。

「もしそれが本当だとしたら、あなたはワクチンで不妊になることを認めているということ?」

「ワクチンを推奨している立場で、それを認めているよ。人口をこれ以上増やしたらもっと大変なことになるからな」

吐き気がしてきた。

「私と離婚すればよかったのに。私は他の人の子どもを産むことだってできたのに。どうして‥どうして‥」

もう何が何だかわからない。
私の結婚生活はなんだったの。
なんなのよなんなのよ。

とめどなく涙が溢れて言葉がでない。

「お前が見たからだ」

は?
見たくて見たんじゃないし。
思い出したらまた気持ち悪くなってきた。

「キモ」

思わず口からでてしまった。

ヤバいと思った瞬間、夫の顔が烈火の如く怒っていた。

逃げなきゃ
殺される

立ち上がろうとしても
足が動かない

夫が首に手をかけた時

怖いと同時に
やっと死ねる

という安堵感があった。

もう生きることを頑張らなくていい。



もういいや



意識を失った時
遠くから声が聞こえた


懐かしい香りがした。



つづく
(次回は6/29にUPします)

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