400字小説『赤信号と猫』
「ゆうくんのすごいところって、青信号が点滅してたら絶対に渡らないところだよね」
点滅する青信号にあわててかけだすひとたちを横目に見ながら、ぼくはふと彼女のことばを思い出した。そしてその直後、道路に突然飛び出してきた猫を助けるために赤信号を無視し、冷や汗をかいたことも──。なにも気がつかなかった運転手にひどく怒鳴られたけれど、「猫ちゃんが無事でよかった」と笑う彼女を見て、心がほんのりと軽くなった。
「──あっ」
その彼女の腕を、猫がするりと器用に抜け出した。そして今度はきちんと歩道を走りながら遠くへと消えていく。
「ちゃんとゆうくんを見習うんだよー」
そう声をかける彼女がたまらなく愛おしくなって、ぼくは空いた手をからめとった。
彼女の手の温もりを思い出しながら、今日もまた、ゆっくりと足を止める。
最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。