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また傘をひらく日がくるまで

 ずっと、雨が苦手だった。雨が降っているだけで気分はどんよりするし、なんとなく、その日一日に希望が持てなくなるから。ずっと晴れが続いたらいいのにな、なんて考えていた日が、すこし前まではたしかに存在していた。


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 でも、なんでだろう。
 ふと、いつも使っている傘が玄関のすみっこにそっと立てかけられているのを目にしたとき。なんだか急に雨が、傘が、恋しく思えた。そして、胸がきゅっとなった。ことばにするとしたらそれは、行き場のない申し訳なさや、さみしさ。そしてほんのすこしの絶望も混じっていたかもしれない。
 その感情たちの理由はきっと、もう一ヶ月ちかくその傘をひらいていないからだ。青い水玉模様の、わたしの傘。また外の世界へ連れていってくれる日がくるのを待ちながら、ひっそりとたたずんでいるわたしの傘。“はやくぼくに外の世界を見せて”。“はやく誰かの背中を守らせて”。本当はそんなことを考えているのだとしたら。人間だけじゃなく、誰かに大切にされている“もの”たちも、外の世界を恋しく思っているのかもしれない。


 だからはやくそんな日がくるように。たまにはこの傘と一緒に、安心して友だちと待ち合わせができるように。そんな日がくるのはすこし遠いかもしれないけれど、果てがみえない遠さでは決してないから。だから静かに、その日を待っていよう。


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最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。