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ウソのさよなら
彼と“また明日ね”、と言い合ったあとの電車の中はひどくさみしい。
あのまま一緒にいられたらいいのにな、なんて願いながら、隅っこのドアに寄りかかる。
変わりゆく景色を見ようと窓の外に視線を移すけれど、そのガラスに反射しているのは、いまわたしと同じ空間にいるひとたち。
軽く手を繋ぎながら楽しそうに話す恋人同士。席に座っているおばあさんと、その前に立って少し背中を曲げながら幸せそうにしゃべりかけるおじいさん。今日は楽しかったね、と嬉しそうに話す小さな男の子と、その子を温かい目で見つめる両親。たくさんの笑顔が、黒い窓に反射して映る。
いまのわたしは、このひとたちにどう見られているのだろう。
少し前まではわたしもあなたたちと同じ顔をしていたんだよ、と心の中でつぶやく。ため息はその中にはしまっておけなくて、はあ、と小さく息を漏らす。
◇
ふいに、チリン、と音がして慌ててスマホを見る。
彼の名前が目に入った瞬間、思わず顔がほころんだ。
“今日はありがとう。”
その一言に、わたしの心は一気に温かくなった。
やっぱりわたしって単純だなあ。
でもそんなことはどうでもいいや。
ずっと一緒にいられなくても、また会う約束ができる。それだけでわたしは幸せだ。
◇
ふと窓の外を見ると、さっきまでは見えなかった綺麗な月が光り輝いていた。
最後までお読みいただきありがとうございます✽ふと思い出したときにまた立ち寄っていただけるとうれしいです。