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💭どこかの街の、架空の思い出たち💭

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短編小説や詩などを載せています。
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#恋愛

ウソのさよなら

彼と“また明日ね”、と言い合ったあとの電車の中はひどくさみしい。 あのまま一緒にいられたらいいのにな、なんて願いながら、隅っこのドアに寄りかかる。 変わりゆく景色を見ようと窓の外に視線を移すけれど、そのガラスに反射しているのは、いまわたしと同じ空間にいるひとたち。 軽く手を繋ぎながら楽しそうに話す恋人同士。席に座っているおばあさんと、その前に立って少し背中を曲げながら幸せそうにしゃべりかけるおじいさん。今日は楽しかったね、と嬉しそうに話す小さな男の子と、その子を温かい目で

そのぬくもりを

ひとりぼっちだったとき、かじかんだわたしの手を温めてくれたのは小さなマグカップだった。  わたしの手のひらより少し小さな、白いマグカップ。 心が冷え切ったときはいつも、ゆらゆらと湯気を立たせながらわたしの手のひらを温めてくれた。 その熱いくらいの温度が、“きみはひとりぼっちじゃないんだよ”と言ってくれているみたいで、無機質な冷たさになるまでずっとずっとカップを握りしめていた。 ◇ それから長い月日が経って。 いまわたしの手を温めてくれるのは、あなたの少し大きな手。 じ