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野草たちの息づかいが聞こえる 善師野の庭 -後編-

「”雑草”と呼ばれる、庭や道ばたの草花だって、
一つひとつにちゃんと物語がある」。
愛知県犬山市の善師野(ぜんじの)に暮らす半谷 美野子(はんや みやこ)さんは、そんな野草に魅せられた一人です。
イタドリジャムにスギナ塩、薬草で仕込む常備薬など、
季節の野草を取り入れた暮らしを訪ねました。

テーブルに並べられたのは、爽やかなカキドオシとレモンのハーブティーに、甘酸っぱいクズの花の酵素ジュース、抹茶のような風味のスギナ塩パウダー、和ハーブバター&べジクリームチーズ。仕上げに、庭の野草をあしらえば、まるで野のレストランのよう!

キッチンや冷蔵庫には、季節ごとに仕込まれたシロップやパウダー、化粧水などに活用する抽出液のチンキ剤がずらりと並ぶ。ゆず茶やキンカンのはちみつ漬けは、体調を崩したときだけに飲むことを許される常備薬だ。

料理に使うネギを切らしていたら、土手に生えるノビルを摘んで代用する。少々クセのある野草は、茹でて刻めば、餃子のタネにもってこいだ。

小学4年生になる長女は、学校帰りに足を擦りむいたとき、止血効果があるというヨモギを揉み、患部に貼り付けて帰ってきたという。野草は、すっかり暮らしの一部に溶け込んでいる。

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野草の恵みを詰め込んだチンキ剤やシロップ。旬の時期にまとめて仕込んでいる。

埼玉県に生まれ、物心ついたころから山菜取りやギンナン拾いが家族行事だったという半谷さん。森林インストラクター、和ハーブインストラクター、アロマコーディネーター、ライター……名刺には、枠に収まりきらないほどの肩書きが並ぶ。

霊長類研究家である半谷吾郎さんと結婚し、研究所のある犬山市に移り住んだのが11年前のこと。

―ここに来て一番驚いたのは、在来種の二ホンタンポポが、道ばたで普通に咲いていること! 絶滅の危機と言われ、東京では“守る会”まであるんですよ。

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ヨモギやセイタカアワダチソウを使った草木染め。

そんな半谷さんが野草の可能性に着目したのは、女性に人気のアロマ。海外のエッセンシャルオイルやハーブではなく、身近な日本の植物を活用することで、自然を知ってもらうきっかけになると考えた。

―野草を摘んでいると、近所の田んぼが埋め立てられてしまったなとか、この一角だけ草が生えないのは除草剤のせいかなとか、今まで意識しなかったことが見えてきます。

“自然派”という言葉がありますが、オーガニックを求めて海外製品を買うよりも、身の回りの植物や生きものの存在に気づく“自然好き”を増やしたい。本当は私の肩書きも、“野草好き・半谷美野子”が一番しっくりくるんです。

庭の片隅、近所の河原、駅への道すがら―。
半谷さんを訪ねてからというもの、たびたび外で足を止めるようになった。名を教わった草花を見つければ、まるで顔なじみのような親しみが湧いてくる。果てなく、愛すべき、野草の世界。

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半谷 美野子さん
『ナチュラルクラフト 木nezumi』の名で、和ハーブインストラクター&森林インストラクターとして活動。「自然と人をつなげる、伝える」をライフワークとし、野草料理、薬草コスメ、草木染め、自然クラフト等の講座を開催。https://www.facebook.com/kinezumiya/
photo こんどうみか 「ほとりプレスvol.1」より

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