2.運命の古民家物件との出逢い

2019年1月27日、ネットで運命の物件情報を発見し、その数日後には主人が内見の予約を済ませた。

2019年2月2日、主人と主人の母、子供二人を連れて運命の物件を内見した。
その日は鎌倉市内の物件2件の内見を予約していて、1件目に内見したのがこの物件だった。
内見当日は本当によく晴れた日だったが、築53年の大きな家はとても寒かったことを覚えている。古くて大きい証拠だ。
意外だったのは、誰よりも子供たちがこの家を大層気に入ったことだ。ほどほどに古くて大きく、内見中も自分がどこにいるのか分からなくなる様なユニークな間取りだったので、当時忍者にハマっていた長男は、【からくり忍者屋敷】と呼び名を付けるほどだった。
張り替えられたばかりの畳の部屋は靴下で歩くとツルツルと滑り、きゃっきゃと騒ぐ子供たちの姿は新鮮だった。考えてみれば、私の実家に和室は一間あるので何となく過ごしたことはあるけれど、彼らは畳の部屋で暮らしたことが無かったのだ。
昨今の日本の住宅事情と忘れかけていた日本の日本らしい暮らしを気づかせてくれたこの物件には、日本の日本らしさがたくさん詰まっていた。

私たちは、2件目の内見スケジュールもあったので、初回の内見はさらりと済ませた。2件目の物件は離れもアトリエもある魅力的な物件だったが、空間把握能力が特段乏しい私にもわかるほど建物が傾いていた。どんぶり勘定ではあるが、各所の修繕費用も膨大にかかるであろうことも分かった。

それからは、もう1件目の家のことしか頭になかった。
毎日仕事の休憩中と夜眠る直前にスマホで物件の掲載されているサイトを閲覧した。毎日見ても飽きない家だった。それは主人も同じだった。そして、私よりもコンスタントに物件情報を見ていた主人が、当初から価格が下がったことを発見した。これはチャンスだ。売主は価格を下げてでも売却したいと考えているはずだ。
そこからはかなりスピーディーにコトを進めた。
2回目の内見を予約したのだ。
今回は不動産会社を吟味した。できることならスムーズに誘導してくれるデキる担当者が良い。私たちに無駄な仲介手数料を払う余裕はない。主人は飲食業界に25年いた人間なので、1円でも安く仕入れるスタンスが染み付いている。主人の調査の結果、最も近道となるであろう不動産会社に2度目の内見予約を入れて、子供二人と私たち夫婦で本気の内見をした。
子供には、一度来たことがあるお家であることは口外せぬように話しておいた。彼らは又しても畳の部屋に心奪われ、きゃっきゃと遊び呆けていたので、大人としては作戦成功だった。そして、幸いにも不動産会社も担当者も大正解だった。建築や民泊にも詳しい担当者の話を聞きながら、改めてじっくり家を見れた。見れば見るほど惚れ込む家だった。

今や見ることも少ない立派な冠木門。緑青の美しい銅ぶき屋根。おばあちゃんの家を彷彿させる引き戸の広い玄関口。木のサッシが残る明るい縁側。一枚板を贅沢に使った天井と、雪見障子が見事な和室。枝垂れ梅や紅葉、椿が並ぶ日本庭園。やや現代風の造りではあるが、なまこ壁の蔵までもが存在していた。
日本生まれ日本育ちの日本人でも興奮してしまう、懐かしさを超えた憧れの域にある純日本家屋の要素に溢れた旅館のような家。
それでいて築年数の割にとても状態が良く、いわゆるド古民家ではない古民家要素を残した改築古民家であり、オーナー同居型の民泊を運営するには公私の分割が容易な間取り。尚且つ水回りのリフォームも全て完了しているので、今すぐにでも暮らすことのできるこの家は、無敵の物件だった。

2回目の内見を終えた後も、一日に何度も何度も物件の掲載サイトを眺めていた。眺めては息を詰まらせ、溜め息をついていた。
寝ても覚めても考えずにはいられなかった。
それはまさに、恋そのものだった。
対象を家に限定するならば、それは紛れもなく私の初恋だったのだ。



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