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【連載小説】すまいる屋⑥

前回⑤はこちらから

「ネジリン、この前はごめん!」

にネジリンが席につくなり、私は頭を下げて謝った。ちゃんと、分離礼で。

「え、なになに、どうしたの急に?」

ネジリンはびっくりしている。

「いや、こないだネジリン、せっかく悩みを相談してくれたのに、私ちゃんと聴けてなくて・・いや、正確にいうと、ちゃんと聴いてたんだ。真剣に」

私はアイスコーヒーをずずっ、と飲んだ。緊張して喉が乾く。

「ある人からね、私は頷きが少ないから、共感しててもそう見えない、て言われたの」

そこまで言ったところで、ネジリンの表情がゆっくりと緩んでいく。

「そうなんだ・・私こそ勘違いしてごめん。森田ちゃん、今忙しいから相談とか迷惑なのかな、って思って・・確かに、ちょっと不機嫌な感じに見えちゃってた。感じ悪かったよね、私のほうが」

「そんなことないよ!」

私は慌てて訂正する。

「ネジリンの相談なら、たとえ忙しくても聴くよ!ほんとにごめん。改めて、聴かせてもらえる?」

ネジリンは嬉しそうに頷いて、言った。

「なんか森田ちゃん、昔にもどったみたいだね」


「・・・・ということがあったんです」

すまいる屋につくなり、私はピリカさんとカニさんを掴まえて一方的に報告した。

「ちゃんと話し合えて、よかったですね」カニさんが手を叩いてくれる。

「それから、ネジリンさんのお話を聴いてみて、どうでしたか?」

ピリカさんも嬉しそうだ。

「はい、特に解決策はでなかったんですけど・・ネジリンが言うことを私はうんうん、て聴いてただけで。でも、気が晴れたと言ってくれました」

「それでいいんですよ」

ピリカさんが言う。

「解決策は、本人が出すことです。話すことで頭のなかが整理されて、ネジリンさんがスッキリされたなら、もう百点満点です。」

「よかった」

本当によかったと思う。

「他には、なにか気づきましたか?」

ピリカさん、さすがに鋭い。

「大したことじゃないんですけど・・私、こういう仕事をしたかったんだな、て思いました。なんと言うか、人から直接、ありがとうって言われる仕事」

そうだ。学生時代まで、人と話すのは楽しかった。社会人になってからの色んな経験が、却って私を消極的にしていた。

「ありがとう、て言葉は最強ですもんね。わかるわあ」カニさんも大きく頷く。

「ちょっとお聞きしますね」

ピリカさんは、何かひっかかるようだ。

「この前面接を受けたのは、銀行のデータ入力の仕事と言われてましたが、なぜその会社を選ばれたんですか?」

「特に理由はないんです。入力作業は昔、経験があったので、できるかな、って。でも、実際面接にいくと他の人がすごく優秀に思えて、逃げ出したい気持ちになるんです。手が震えて、思うように話せません」

言い終わって、驚いた。

どうしてだろう。こんなに、自分の気持ちを淀まずにスラスラ言えるなんて。今までの私には考えられない。

「なるほどですね・・。わかりました。でもせっかく仕事を探すのに、そんな消去法のような選び方はもったいないですね」

ピリカさんが立ち上がる。

「そろそろ、個性の話をしたいと思ってました。森田さまは、個性心理学でいうと、キャラクターは本質がmoonのひつじです。


ほんとはもっと細かく分類するんですが、簡単に言いますね。ひつじさんは、別名配慮型ともいって、人との信頼関係を作るのが上手で、目配り気配りをさりげなくできる人です」

あ、それはちょっと自信あるんだよね。

私はうんうんと頷いた。

「攻めるのは苦手ですが、受け上手。博愛心も強いからボランティアなどにも熱心な方が多い」

「あ、はい。学生時代私もよくしてました」

「人からの信頼も厚いですよね。でも、一対一のガチの付き合いよりは、みんなで和気あいあいしている方が安心する方が多いです。ひつじさんは群れる動物ですからね」

「えっ、あ、はい!」

わかる。一対一はなんだか苦手なんだよね。

なんとなくどこかに所属していないと落ち着かない。一匹狼には憧れるが、私には無理だ。

「過去回想型なので、仕事を探すときにも過去に経験があるものから探します。だから、データ入力なら前にしたことあるから、当然選びますよね」

「はい、でもみんなそうでしょう?」

私はカニさんに聞いた。

「うーん、私はピン、ときたら未経験の分野でも動きますねぇ」

「カニさんは、sunのチーターさんだから狙いが定まったら早いんですよ」

ピリカさんが笑う。

「黒ひょうのピリカさんだって相当速攻ですやん」

ふたりの掛け合いが早すぎて、テニスの試合のようだ。

「こういう風にね、それぞれ普通、が違うんです。さっき、まわりは優秀な人ばかりで、とおっしゃいましたね。森田さまにとって、<優秀な人>とはどんな人ですか?」

「えっ、それはしゃん、としてて行動が早い人でしょうか。あと、人の目を気にしないでちゃんと持論を言える人」

「なるほど」

ピリカさんが頷く。

「では、しゃんとして持論が言えて行動が早いカニさんにとって、優秀な人とは?」

カニさんはハキハキと答える。

「そりゃあ、廻りをちゃんと見れてソツのない人にきまってますやん。あと、あんまり出すぎない人!弁えてる人ってカッコいいですよね」

「ね?」

ピリカさんは面白そうに、目を大きく見開いた。

「優秀、と言う言葉ひとつ、それぞれで違うんです。森田さまが廻りを見て怖じ気づくように、ほかの誰かは森田さまを見て怖じ気くんです。結局、みんなとなりの芝生は青いんですよ」

私はなんだか毒気を抜かれてしまって、口をあんぐりと開けてしまった。

「やったことある仕事から探す、は森田さまにとってストレスが少ないから、ベストだと思います。ただ、どこかで冒険をしないといけない時もくるはずです。

そうしないと、経験のある範囲から一生出られませんよね。もちろん怖いし、なかなか手が出ないのもわかります」

ピリカさんがにっこり笑って言った。

カニさんも頷く。

ふたりの声が重なった。

「すまいる屋は、そのためにあるんです」

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個性心理学のお話をすこし混ぜてみました。

自分が欠点だと思うところこそ、魅力だったりするものです。

自分のことって、意外と自分が一番わかってないんです。

そう思えば、人前でも堂々とできそうな気がしますよね!

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