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「上手すぎないところがいいんだ。あったかくてさ」 ~「一膳めし屋 丸九」/中島久枝

久々に本の話。

私は時代小説が好きだ。武士ものより、庶民のくらしがわかるもの。

特に、食べ物の話が絡むものをよく読んでいる。

けっこう、書いている作家さんも幅広い。

宮部みゆきさんの「初物がたり」や高田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズ、

柴田よしきさんの「お勝手のあん」シリーズなどがうちの本棚にはある。

一膳めし屋丸九シリーズは、そのなかでも庶民の肩肘はらない「めし」の描写が秀逸なのだ。

「朝も昼も白飯に汁、焼き魚か煮魚、煮物か和え物と漬物、それに小さな甘味がつく。」

もう、これだけでもう食欲が出てくる。

おかみはお高。29歳。

21歳から父の死後、店を守ってきた。

父は江戸の高級料理店の元板長だった。その味をまだ十分に再現できていないと悩みながらも、

お高は店を切り盛りし、個性ゆたかなお客とともに日々を過ごしている。

タイトルの台詞は、

父の味をまだ再現できない不甲斐なさに悩むお高に、

客のひとりがかけた言葉。


上を目指し、たゆまぬ努力を続けることはもちろん大事だ。

努力をしたことは自分がいちばんわかるし、自信につながる。

ただ、頂上にいきつかない自分はダメだ、と思い詰めてしまうと、

「0か100か」思考になってしまう。

発展途中でも、自分で納得いかなくても、

それはそれであんたの味だよ。

というやさしいメッセージだと思う。


これは、私たちひとりひとりにも言えるのかもしれない。

「あの人みたいにプレゼンがうまくない」

「私にはまだ知識が足りない」

と思うことは多くあれど、その地点での私を評価してくれる人もいる。

結果もそりゃ大事だけど、過程はもっと大事だ。


そんなことを、

現代の私に江戸の人たちが語りかけてくれたように感じた一冊だった。


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