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ねずみ退治とことば

何気ないことばを噛み締める。

あまりに自然に発せられたものだからさらっと流しかけたある人のことばを、あとでパートナーと話していて後から噛み締める場面があった。思い出せば思い出すほど心遣いがあたたかくて、おそらく二度と会わないその人のことを時々思い出している。

家に、ネズミが出た。
キッチンに置いておいた粉物がやられ、怖いから全てタッパーに入れたらそのタッパーもガリガリと噛まれていた。よくよく見たら、黒い3mmほどの糞が至る所に落ちていて、気になり出したらもう気になって仕方ない。ネズミ自体は古民家に住む以上いることに驚きはしないが、いざ被害に遭うと、見えない敵の存在が恐ろしく、怯える日々を過ごしていた。殺鼠罪を置いて仕留めた3匹の小さな遺体の姿も脳裏から離れない。ホッとする感情と、命をこの手で殺めた心苦しさと両方がある。開いたままの目は、黒々と澄んで光っていた。

とはいえ、秋には生まれくる小さな命を守るため、感染症の宝庫であるネズミを好き勝手のさばらせるわけにはいかない。ネズミ駆除業者の方にお願いし、対策をとることにしたわけである。

ネズミの習性や、出てきやすい場所、居場所を特定する方法、ネズミに餌場だと認識させない方法、日々気をつけること、そんなお話を業者の方から伺う。水滴一つ、ネズミにとっては水分補給になるし、洗った缶詰やペットボトルなど臭いがあるものは全て注意が必要と知り、自分の認識が甘かったことを知る。

さすが業者さん、内容も勉強になるのだが、何気ない会話の中での細やかな言い回しが素晴らしかった。

「拝見したところ、このお宅は新築ではなさそうですので‥」(新築どころか築50年〜60年のどちらかといえばボロい家なのに)
「こういうことを言われると気を悪くされるかもしれませんが、空き家だった間にすでにネズミが住み着いているという可能性もあってですね‥」(大いにありえるし、もはや絵面も想像できる)

こんな風に、相手が決して気を悪くしないように、細心の注意を払って丁寧にことば選びをされている姿にとても感心した。

お任せスタイルのパートナーと違い、私はお願いしたからには少しでも多くの知識を得たいし、なんなら技術も今後の参考に見て真似たいと思うタイプだ。若干鬱陶しくもある私の細かな質問にも一つ一つ丁寧に答えてくださり、仕事も早く、やや散財ではあったがとても満足のいく仕事ぶりだった。

おそらく、ネズミが家に出たということの捉え方が人によって異なるため、ナーバスになっている方も多いのだろう。実際、うちでも、ネズミに免疫のある私はそこまで驚かなかったが、東京から来たばかりのパートナーはネズミ出没の事実自体に相当衝撃を受けていた。だからこその、経験から来る配慮なのかもしれない。

後から聞けば、広島からわざわざ遠路はるばる来られたとのこと。
それを知っていたらもうちょっとおもてなししたのにな。
何はともあれ、ネズミ駆除業者という、どちらかというと作業中心で全く人間味など期待していなかった場面で、さりげないことばの思いやりを受けたことがとても嬉しかった。

やっぱりことばは面白い。

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