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自分の感受性くらい

仕事が終わりそそくさと家路につく途中、道端に立っている初老のご夫婦が、二人してどこか高いところを眺めていることに気付く。運転しながらなのでちらっとその方角を見てみると、ひこうき雲が見えた。あ、きれいと思ったけど、車を運転していると道路内で急停車はできない。いつも、こうやって「あ」という新鮮な発見がずさんに垂れ流されていく。今日もこのまま通り過ぎそうになったが、思い立ってすぐそばにあるスーパーに左折して、車を降りて空を眺めてみた。ひこうき雲が二本、広くて青い空にかすれながら弧線を描いている様子が見えた。

19時近くなのにまだこんなに空青いんだな。そして、車に乗っていると空なんて見えないなあと思った。自分の視界に入っているものなんて、ごくごくわずかだ。初老のご夫婦の目線に気付いてその先を追えて、しかも停車できた今日の私超ナイスだなと思った。こういう、些細な「あ」を拾える自分でありたいといつも思っている。時間の余裕と、心の余裕と、瞬時の判断力。自分の感受性くらい自分で守れ、ばかものよ。茨木のり子さんもそう言っている。耳が痛い。

最近、朝が思う通りに起きられない。夜更かししていることが原因なのは薄々わかっているのだけど、呪いのように眠たい。朝が一番冴えているので、朝コーヒーを飲みながら集中してから仕事に向かいたいのに。バタバタせわしない朝、それすなわち、ぼさっとした一日の幕開けだ。日記も毎日書きたいのに、昨日はどうも手が止まってしまって書けなかった。書かないと余計ことばが出てこなくなる。筋トレのようなもので、毎日少しずつでも自分のことばを外に出すこと。そこで大事なのが、「あ」だ。この「あ」は、絶対一日の中に1個以上はあって、それを垂れ流すか、拾い上げるか、通り過ぎるか、立ち止まるか。

車を停めて空を眺めている私を見て、誰か「あ」と思っただろうか。スーパーから出てくる人は大きな荷物を持って、自分の車に一直線に向かっていた。目的地へ急いでいると、路地裏に目が向かない。きょろきょろして、知らない道にふらっと入っていけるように。生活の中でもそういう余白を持っていたい。今日の発見。ひこうき雲って、かすれるんだ!