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ねこの避妊

うちで飼っているメスねこ2匹の避妊手術をした。

中山みそ様、中山とび様。気恥ずかしいような薬袋から術後の抗生剤の粉薬を出してねこの口の中にサラサラとやっていると、なんだか自分のお腹のあたりがスースーする気がする。この子達のお腹に数日前まであった子宮と卵巣は、今はもうない。

動物好きでもない私が、ねこを飼い始めて早半年。手乗りサイズの200gだった子らも、今や3kgほどに成長している。それに伴い「動物なんて、足かせ以外のなにものでもない」と豪語していた私のねこへの愛情も着実に増していっている。数日家を離れるとねこが恋しくなるし、家に帰ってねこと戯れる時間は至福のときである。

ねこを飼うにあたって方々から言われたのが「避妊、去勢だけはしっかりしろ」ということ。ねこの生殖機能は人間のそれとは若干異なっている。人間の場合は、排卵した卵子は子宮で精子の到着を待ってタイミングが合えば受精する仕組みだが、ねこの場合、交尾をすると排卵が起こる。つまり交尾するとほぼ100%の確率で妊娠し、平均3〜5匹の子猫をゴロゴロ生むそうだ。

ただでさえ現在5匹のねこを飼っているので、これ以上増えるのはさすがに難しい。5匹いるうちのメスは2匹。まずは女子だけ手術して、男子は様子を見ながらやっていこうという方針になった。私は、手術可能な時期が来たらすぐさま動けるように、ねこ好きな知人におすすめの動物病院をリサーチし、計画的に段取りを整えていた。しかし、一緒にねこを飼っている同居人がどうも煮え切らず、話がそこから先に進まない。手遅れになってからでは遅いのに。早く、早く。焦る気持ちが募り、この話をすることにストレスを感じる日々が続いた。

ある日思い切って「もしかして、手術したくないの?」と聞いてみた。すると、「自然に逆らうようで、本当はあまり気が進まない。自分がねこだったら嫌だなと思って」と同居人は答えた。私は、そのときに初めてねこの気持ちを考えた。メスねこの避妊手術は、子宮と卵巣を摘出するそうだ。人間でいうと、子宮全摘出術。産科では、産後に子宮からの出血がどうしても止まらない時に母体の命を守るためにやむを得ず行う手術だ。『ブラックジャック』の漫画でも、ガンで子宮全摘出術をした女性が、その後女性ホルモンを失い男性として生きる苦悩を描いた回があった。そんな手術を、このまだ生まれて半年の、なにもわからないねこに、するのか。避妊避妊と躍起になっていた私は、そこでふと我に返った。私がねこでも、確かに嫌だわ。

自然界の動物は、勝手に生まれて死んで淘汰されていく。うちのねこも、本来6匹いた。宮崎あおい似だったべっぴんのむぎちゃんは、もらってから数日で命を落とした。とてもショックで、あとの5匹はなんとか生き延びさせようと誓った。弱った子は他の子と隔離してNICU(にゃんこICU)を家の中に設置し、電気毛布であたため、餌も別で与え、今こうしてやかましいくらい元気に育っている。私たちがいたから生き延びた命が、あるかもしれない。だから飼った以上、自分が責任を負えない命をいたずらに増やすことは無責任だ。そう自分に言い聞かせ、我々はやはり避妊手術を行うことに決めた。

手術の前日は、夜22時から禁飲食。朝9時に病院に連れて行き、夕方17時に迎えにいく日帰り手術だ。術中は全身麻酔をするため、誤嚥を防ぐため翌朝まで禁飲食を続け、3日間は1日2回抗生剤を内服する。人間の場合と一緒である。禁飲食の前と後はご褒美に缶詰をたらふくあげた。帰ってきたみそととびは一見なにも変わらないように見える。しかし、術後先生に頼んで見せてもらった大豆みたいな小さな卵巣と、綿棒みたいな細い卵管(子宮は見えなかった)は、もう確実にお腹にはない。これからホルモンバランスが変わり、どのように変化していくのだろうか。その変化もしっかりと見届けてあげなくては。

動物を飼うと、いろいろな感情を味わう。お金もかかるし、物は壊されるし、散らかすし、思うようにならなくていらいらすることも沢山あるけれど、足かせ以外のなにものでもなくはない、と今は思う。がんばったみそととびには、手術の日以降毎日ギュッとしている。