昭和復活

「いや、めでたい。まことにめでたく、結構なことですな。天皇陛下の御即位の礼なんてものを、生きているうちに見られようとは、ついぞ思いませなんだよ。長生きはしてみるものです。まあ、私にしたって、戦中世代というわけじゃあありませんがね。ええ、生まれてはおりましたけれども。腹も空かせていれば、働かされもしましたが、なに、さんざん小言で聞かされた、戦時の苦労なんてものは、私くらいの年寄りにしても、もうひとつぴんと来ませんでしたな。あんまりだれもかれもが話すものですから、しまいにはうんざりしておりましたよ。ですが、そんな我々にとっても、天皇陛下というかたは、いささか特別でありましたな。いや、天皇陛下個人が、というのではありませんか。なんといいますかな、天皇陛下を中心として、くにが一丸となって、あのほら、進め一億火の玉だ、というような、全体主義的な。団結。団結でいいんですかね、ああいったものは、あの敗戦のあとも、おりにふれて、あったのですよ。言ってみれば、戦争のときは、そのしんが天皇陛下だったと。それがほら、高度成長期ですとか、学生運動ですとかね、他にもありましたかね。そういったものはあれでしょう、あの戦争とよく似ておったとは、いえませんかな。言ってみれば、それらのしんは昭和という時代でしたよ。抽象的に過ぎる、とお思いですか?ですがね、あなたのような若いお人はご存知ありますまい。昭和が一度死んで、よみがえったなんていうことはね。いやいや、ことば遊びなんかではないのです。本当に、昭和という、これはもう、妖怪かばけもののたぐいですが、それが一度死に、よみがえったというわけなのです。もちろん、いまはちゃんと、というのもおかしいが、完全に死んでいますよ。もう、よみがえることはないでしょう。そうですな、少し、年寄りの昔語りに、お付き合い願えますかな?わたしも済ませたいのですよ。昭和のとむらいを―――

【続く】

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