着地屋稼業

あんたが逃げ出すのだとする。殺しか、何かで、警察に追われてな。貨物にまぎれるのがスタンダードだが、旅行者に扮するってのも、できなくはない。そう、宇宙に逃げるのは簡単なんだ――問題は、どうやってけつを下ろすかってことだ。もちろん、追うほうだって同じさ。わざわざ宇宙を追い掛け回さなくても、入り口を見張っていれば、それで済む。

「そういうわけだからな、あんた。無事に殖民惑星にはいり込みたいってんなら、おれみたいなガイドが要るんだよ。あんたの身元を証明し、滞在権をもらって、地に足つけて暮らすにはな。もっとも、航宙ヘクスコンテナで漂いながら暮らしたいってんなら、お好きにどうぞ」

ここまでが前口上。わかりやすいと評判だ。まっとうな手段を諦めて、おれのところに来るような客は、だいたい、頭のネジのゆるみきった連中だが、今回のは特別だった。なにしろ、"知性化されたジャイアントパンダを客に持った"なんて話は、同業者のあいだでもちょっと聞いたことがない。

「まずは衛星軌道までの話だが、こいつはパッケージ価格だ。射出でもむろんかまわないが、おれとしちゃ船舶のほうをすすめるね。コンテナ保全関係の費用は前払いで…」

まくし立てながら、おれはフル回転で考えていた。知性化された大型哺乳類じゃ(いくらボンクラだろうと)100%密航で、望みはゼロだ。ただの大型哺乳類ならいけるし、研究用なら免税のおまけつきだが、検査済証は必要になる。いっそ冷凍睡眠させちまえば、食肉で申告する手もある。検査はゆるいし、コンテナも安くあがる。凍った肉に滞在権が出ればの話だが。

まるで止まる気配のない、汁気たっぷりのセールストークに、パンダご本人はといえば、とっくに目を泳がせていた。大げさにため息を吐いてみせる――こんなやつにでも、宇宙に逃げるのは簡単なんだ。問題は、そいつがどっかにけつを下ろそうってときで、まさに、それがおれの仕事だった。


【つづく】



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?