ひとりきりのグレーテル

ヘンゼルとグレーテルは、親に捨てられた。ただし一人づつ。森の奥に追いやられ、帰り道がわからなくなった。

グレーテルは、先にいなくなった兄を探し回った。いつか出会えると、森の中をぐるぐると歩き回った。焦燥感や、寂寥感で胸がいっぱいになるのを堪えた。きっと彼も、自分と同じ想いで、自分のことを探しているだろうと思った。雨風は、洞穴や木の根元にかがんでしのいだ。お腹が空けば、木の実や草を食べ、だんだん、小動物なら仕留めて食すことができるようになった。ただ、一つどころに止まらず、ひたすら彼女は兄を捜索する足を止めなかった。

それもこれも、同じように淋しい思いをしているだろう兄に一刻も早く会いたかったからだった。

だからあるとき、彼がお菓子の家に辿り着いたことを知ったときには、動揺した。インスタグラムで、それを知ったのだ。彼は、パステルカラーのクリームがいっぱい塗りたくられた壁や、イチゴやバナナやメロンが飾ってある屋根、ワッフルでできた香ばしそうな扉、チョコレートの窓枠とシャーベットでできた窓。。お菓子の家での満面の笑みを浮かべた彼の写真は、衝撃的だった。

グレーテルは、ヘンゼルは今ではもう、自分のことを必要としていないと直感した。自分は、こんなに苦労しているのに、彼は甘い甘いお菓子の家で幸せいっぱい暮らしている。

グレーテルは、それでもまだ森の中をさ迷っていた。兄のヘンゼルのことを今でも探したいと思っているのかどうか、それは自分でもわからなくなっていた。それでも、森の中、兄の影を探し求めることをやめられなかった。

最近の悩みは、彼に会ったら何を言おうか、ということだ。


#小説 #ショートショート #掌編 #ヘンゼルとグレーテル


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