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みどりのかみさま

みどりちゃんの神様の話はしたっけ?

みどりちゃんの神様は、みどりちゃんが思春期真っ只中の14才から、姿を見せるようになった。みどりちゃんの神様は、「かみさまね」「かみさまはね」と自分のことを「かみさま」と呼ぶ。

みどりちゃんの神様は、みどりいろ。姿については、大人の事情であまり言えないけれど、今、君が想像した、まさに、その姿。

みどりちゃんの神様は、みどりちゃんのねがいごとを叶えにきた。それはほんにんが、そう言ってたから、まちがいない。

みどりちゃんの神様は、人間の時間のことが、あんまりよくわからない。みどりちゃんが「家で一週間くらいゆっくり休みたいな」と思うと、みどりちゃん自身がその願いを忘れた頃に、ひどい風邪をひかせて、その願いを叶えてくれる。みどりちゃんがそのことについて「遅いよ」とか「今じゃないよ」と文句を言うと、みどりちゃんの神様は、シクシク泣いて、手がつけられなくなってしまう。だからみどりちゃんは、みどりちゃんの神様を許してあげる。みどりちゃんの神様は、みどりちゃんだけの神様だから、みどりちゃんのことが大好き。みどりちゃんも、みどりちゃんの神様が大好き。

みどりちゃんは、担任の先生のあおいちゃんのことも大好き。あおいちゃんは、けっこんしていて、子供もいるから、いろんな意味で、好きになったらいけないひと。でも、みどりちゃんは、あおいちゃんが大好き。

みどりちゃんは、あかねちゃんも大好き。あかねちゃんは、みどりちゃんと同い年の、かわいい女の子。あかねちゃんは、たくさん不幸なことがあって、ちょっと大人びてしまっている。そんなところも、みどりちゃんは大好き。

なのに、みどりちゃんは、あおいちゃんと、あかねちゃんが仲よさそうにしていると、なぜだかちょっと悲しくなる。ちょっと悲しいだけならいいけど、ときどき、とても悲しくなってしまう。2人とも、大好きなのに。

あるとき、みどりちゃんの前から、あおいちゃんも、あかねちゃんも、いなくなってしまった。

みどりちゃんは、辛くて辛くて、みどりちゃんの神様に、「なんで教えてくれなかったの」「なんとかしてよ」と言うけれど、みどりちゃんの神様は頭を抱えるばかり。みどりちゃんは、みどりちゃんの神様に「私はこんなにがんばってるのに」と言う。するとみどりちゃんの神様は、「がんばってるとかじゃ、ないんだよね」と言う。みどりちゃんが「私はこんなに我慢してるのに」と言うと「我慢とかじゃ、ないんだよね」と言う。みどりちゃんが「好きになったらいけなかった」と言うと「いけないとか、ないんだよ」と言う。

あるとき、みどりちゃんの神様は、たくさんたくさん涙を浮かべて、いっぱいいっぱい泣きじゃくって、かみさまね、みどりちゃんのねがいごとを叶えるんだ、と言った。そうして、それから姿を見せなくなった。

みどりちゃんは、みどりちゃんの神様に会えて、姿が見えて、よかった、と思った。会えなくなると、すごくすごく淋しいけれど、よかったと思ったのだ。

それから何年も経って、みどりちゃんは、大人になった。いつも換気扇の下で吸う煙草をくわえて、ベランダに出た。外の景色が見たくなった。季節の移り変わり目で、雲が昨日と変わっていた。煙草に火をつけて、煙が体にまとわりついた。大人になったみどりちゃんは、昔のいろんなことを、思い出していた。思春期の頃、姿が見えていたみどりちゃんの神様のことを考えた。そうしてすごく、悲しくなった。

こんな気持ちになるのなら、神様の姿なんて見えなければよかったな、と思った。

やっぱり神様は、にんげんの時間のことが、あんまりよくわからないみたい。

みどりちゃんの体に、みどりいろの爽やかな風が吹く。

#小説 #掌編 #みどりのかみさま #ファンタジー

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