はつかきこ
良い寿司を食べてきた。大変美味しかった。家族の内3人で行った。父は兄を訪れる時にまた同じ店に連れて行くと言った。全国的なチェーン店である。腹も会計も膨れ上がったが、両親は祝いだと言って笑い飛ばした。
もうすぐ大学生になる。空恐ろしいような希望に弾むような心地で、明日はノートパソコンを買いに行く。最大3つの塾を掛け持ちしては晩秋に全て辞めた。体と心をそれぞれ壊した。精神については前々から機能不全であったし、勉学以外の要因が大きいのだが、とにかく何も手につかないまま気付けば夢打ち砕かれていた。薬の研究がしたかったのだが敗れ、関連してか医療職に就く学部へ進学する。この短期間での結果には充分納得がいく。自分もよくここまで立て直した。
“恵まれた側”である自覚がある。世田谷区で生まれ育ち、由緒正しき中高一貫の女子校に通わせてもらった。叱られても躾けられて、蝶よ花よと育てられた。絵に描いたような楽しい家庭であった。昨今の勝ち組だとか親ガチャだとか、低俗で的確な言葉が刺さって仕方がない。豊かな環境でそれ相応の人間を成せている気がしない。こんなにも怠惰で病欠で尊大で、のらりくらり生きていて許されるのか怪しい。将来自分が子供を持ったらその子にとって私が与えられる環境は親ガチャ失敗に当たるのだろう。私立に通わせられるお金もない、勉強を教える知恵もない。愛さえあればなど言っていられない、項垂れて光を描かない。恵まれたら恵み返さないと道理が通らないと感じてしまうのに、私はまだ何も持っていない。そういった焦燥や諦めが、空恐ろしさの一部である。
時間が経つのは早い。地方で慎ましく幸せそうに暮らしている兄の姿もある。それで良いのだと満足気な両親がいる。誰も何もかも納得のいく生活を送っているわけではない、どこかで限りを知って、足るを知って、それぞれの幸せを抱えている。どこかで正解を見つけて、腑に落ちる生き方に乗って、私は大人になれるだろうか。
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