Vtuber葉山みどから興味を持った人こそ読んでもらいたいラノベ『ぼくたちのリメイク』
Youtubeで【注文の多い工務店】や【針葉磁林】といったシリーズを配信している「葉山みど」こと「木緒なち」が書いているライトノベルが『ぼくたちのリメイク』という作品。
この『ぼくたちのリメイク』の主人公は、絵は描けない、曲も作れない、脚本知識もそれほどない、だけどゲームが大好きで自分で作ってみたい、という男性である。
今作ではディレクション、制作や進行と呼ばれる役職を中心に描かれているのが特徴だ。
例えば、スゴい絵が上手な美少女と、スゴい曲を作れる美少女がいたとしよう。その二人を一つの作品に向かわせるのがディレクターの仕事である。
この、それぞれの才に秀でたクリエイターたちを一つの目標に向かわせるべく、何の取り柄もない主人公は奔走する。このクリエイターたちが美少女だったら、まさにラブコメの構図になるとは思わないだろうか?
彼女たちはそれぞれ問題を抱えていて、自分の絵に自信がなかったり、人前で歌うことに抵抗があったりする。そういう彼女たちに自信を持たせるべく主人公は行動し、結果として、彼女たちの好感度も上がっていくのだ。
しかし、今作の最大の特色はラブコメではなく、クリエイトを中心に据えていることだ。彼女たちが自分を好きになるよりも、素晴らしい作品をつくってほしい。そのために、今作は恋愛描写はそこそこに、クリエイターの挫折や苦悩がリアリティを持って描かれている。
基本的にライトベルとは、作者の経歴は重視されないものだが、『ぼくたちのリメイク』は、この作者ならではの説得力がある。
作者の木緒なちは、デザイナーであり社長でありPCゲームの脚本を書いたり企画を立てたりと、クリエイターの最前線でいろいろやってきた人だ。
最近はバーチャルYoutuber葉山みどとして活躍している。「Youtuberになってお金を稼ぎたいのか?」と思われる人もいるだろうが、この人は面白そうだから始めたのだ。(とあるYoutuberはこの人の年収を聞いて「うちの母と結婚して」と言い寄ったぐらいである)
特に、僕はYoutubeの葉山みどを通じて木緒なちという人を知った。マインクラフトの【注文の多い工務店】シリーズで「社長」「社長」と呼ばれているこの人はいったい何者なのか? そういう好奇心で、この『ぼくたちのリメイク』を読んでみたら、僕はとても納得できたのだ。なるほど、こういう考え方で生きていた人だから、いろんな人が集まってきたのかと。
ただし、『ぼくたちのリメイク』はライトノベルである。おじさんの説教集ではない。このライトさを出しているのが、「十年前に戻ってクリエイターになろう」という設定である。
この作中での十年前というのは2006年のことで、ニコニコ動画が盛り上がったり、初音ミクが登場したり、ハルヒが放映された時期である。当時、ニコニコ動画にハマっていた人は、この作品は懐かしさを感じることができるだろう。
また、ニコニコ動画最盛期を知らない若い人でも、その雰囲気は伝わるに違いない。
そして、十年前に戻るというアドバンテージがあるからこそ、冴えない主人公が同級生に信頼される過程がトントン拍子で進む。もちろん、それが良いものばかりではなく、とんでもない悲劇を生み出すことになるのだが、それが描かれるのは3巻である。3巻4巻まで読み進めれば、今作が特別な作品であることが明らかになるだろう。
ただし、1巻だけでも、クリエイターにとってもっとも大事なものが、才能だけではないことが伝わるはずだ。
面白いものを作りたい。それは誰もが望むことだが、それを作るうえでは面白くないことが多い。それでも面白いものを作りたいという気持ちを捨てなければ面白いものは作れないわけだ。
デザイナー会社の社長でありながら、ライトノベルを書いたり、バーチャルYoutuberになったりと、面白いものを追いかけているこの作者の情熱は何なのか? それをラノベという物語で楽しめるのが今作の一番の魅力である。
僕のように、GYARIというボカロPが好きで、今クラというマイクラ動画が好きで、それを経由してVtuber葉山みどにたどり着いた人にとって、この『ぼくたちのリメイク』は特別な作品になるに違いない。
最後に、今作には本編7巻のほかにスピンオフという形のβが2巻ある。このβでの敵(かたき)役がとても憎らしく、また本編の今後を知るうえで欠かせない内容なので、基本的には刊行順に読んだほうが良い。
・ぼくたちのリメイク1~6
・ぼくたちのリメイクβ
・ぼくたちのリメイク7
・ぼくたちのリメイクβ2
この順番で読めば間違いない。
あと、今作は漫画版もある。作者お墨付きのコミカライズであり、ラノベを読むのが苦手な人は漫画から入ってみるのもいいだろう。
ということで、簡単に『ぼくたちのリメイク』を紹介してみました。
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