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2023年上半期ベスト本【サイエンス編】

2023年の上半期は僕自身としては大きな変動があった。ちょっと体調を崩して一時退店もあり、そんな中でもずっと続けてきた鍛錬の成果も出てきたこともあり、店舗の新装開店あり、 etc.

そしてなにより、自分の人生を変えるほどの名著に多く出会えた。幸運も不運も立て続けに起こる…というより、去年から続けてきたことの結果が(あるいは弊害も)、今になってようやく見えてきたってことかもしれない。

昨年と同様(と言っても、もう残っていないんだけど)、サイエンス部門とアート部門(artificial、人が作ったものという意味)で5冊ずつ選んでます。お楽しみいただければ幸いです。


未知なる人体への旅 自然界と体の不思議な関係

旅の本が好きだ。そして、生化学の本が好きだ。それらが一緒になったら?面白くないわけがない。

人体というのはある意味、極めて精密なケミカルマシンで、ミクロな領域では正確に物理化学の法則に従う。そしてそれらがもう一段階マクロな存在となった「臓器」の視点で見ると…不思議なことに、我々がその美しさや険しさに震える自然現象と極めてよく似ている。

1冊で二度感動が味わえる希有な本。

BREATH 呼吸の科学 / 呼吸の科学 いのちを支える驚きのメカニズム

同じタイトルとはいえ、2冊挙げるのは反則だろ!というツッコミは甘んじて受ける。でも、この2冊は対になっている本で、極めて分かちがたい。

「BREATH 呼吸の科学」は呼吸や呼吸法の歴史や語られ方について、「呼吸の科学 いのちを支える驚きのメカニズム」は、より生化学的な側面や呼吸法の限界について。二つの視点から見ることで、呼吸という生命の根源に関わるメカニズムが立体的に浮かび上がる。ケチケチしないで、2冊読もうぜ!

体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉

最新科学でヒトの運動、身体感覚を眺めてみると?

そのテーマだけで十分面白いのだけど、この本の肝は「テクノロジーは人間の最適な運動を定義【しない】」という事実。テクノロジーは新たな視点を提供してくれるが、「コレがベストなやり方!」という解を与えてはくれない。

ヒトの身体は、永遠にそのヒトのもので、同時に永遠の他者である。がっかりする結論に思える人もいるだろうけど…謎は、謎のまま。それって、最高の結末じゃない?

私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化

「知識とは固定されたものではなく、事が起こっている現場で『創発』されるもの」「コンスタントに発揮される『能力』は存在せず、人間の認知・行動は環境に大きく左右される」etc.

本書に書かれていること一つひとつが認知科学における重要なマイルストーン。少々大げさに言ってしまえば、人類全体の英知だ。この英知を新書で読めるという、その事実に震える。ポピュラーサイエンスだけでなく、あらゆるライティングのお手本にもなる文章・構成も見事。

なぜ心はこんなに脆いのか:不安や抑うつの進化心理学

前書が認知科学の現在までの英知をまとめた本ならば、本書は精神医学の現在までの英知をまとめた本と言える。そしてその結果は…今のところ敗北と言っていい、惨憺たる結果だ。

でも、敗北を認めることから次の一歩は始まる。その次の一歩は、進化の限界と、その結果起こる人間の限界に向き合うことだ。そして同時に、人間とその社会そのものに向き合うことでもある。僕が生きているうちに、精神医学はどこまで進むのだろう?興味は尽きない。

その先に

2023年上半期は、サイエンス関係の本は実はそんなに読んでなかったのだけど…読んだものを並べてみると、どれも一冊の内容で一晩語れるくらい面白い。いずれも僕が知らなかった別の視点、人一人ではたどり着けない英知をくれる。読書を趣味にしていて、改めてよかったと思う。

アート編に続く!


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