魔王城の掃除婦

あたしは魔王城の掃除婦。
あたしの仕事は勇者の死体を片付けること。
極悪非道の魔王。とても強い魔王。
なんとかして魔王をやっつけたくて、
みんな勇気を振り絞り振り絞り、
やってくる。でも、すぐに殺されて終わり。
そして、あたしの仕事だ。

あたしの一番最初の仕事は
一番最初に魔王に立ち向かった勇者。
魔物とひとの合の子であるあたしに
分け隔てなく接してくれたひと。
あたしを愛してくれたひと。
魔王に立ち向かう勇気のあったひと。
けれども、魔王に殺された。
必死に臓物をかき集めるあたしを
魔王は嘲笑って、言った。
「今日からお前は掃除婦だ」
あたしは死にたくなかった。
怖かった。
悲しかった。
あたしは、魔王城の掃除婦となった。

まだ息のあるときもあった。
首が刎ねられているときもあった。
臓物が飛び散っているときもあった。
天井にこびりついているときもあった。
泣いているときもあった。
穴だらけのときもあった。
切り刻まれているときもあった。
痙攣しているときもあった。
真っ二つになっているときもあった。
笑っているときもあった。
一番最初の勇者と、
顔が似ているときもあった。

百人目の勇者がやってきた。
とても強かった。
すぐには終わらなかった。
けれども、剣が折れて、
勇者は追い詰められた。
とっさにあたしは走っていた。走って走って、勇者にあたしのモップを手渡した。
九十九人の勇者の血を吸ったモップ。
わずかでも戦いの邪魔をしたあたしに
魔王は容赦がなかった。
初めて、魔物の血をひくことに感謝する。
首を刎ねられても、まだ意識があるのだから。
だれが想像したことだろう、
掃除婦のモップを武器に戦う勇者など。
なんと痛快なことだろう、
掃除婦のモップに貫かれる魔王とは。

あたしは、あたしは、あああ、あたしは。

掃除婦の首は落ち、
魔王は滅び、
勇者は立ち上がった。
魔王城の裏に
ひっそりと隠れるように
九十九の墓があった。
掃除婦の首はそこへ埋められた。


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