圓窓高座本 第124号 「垂乳根」(たらちね)

圓窓高座本 第124号 「垂乳根」(たらちね)

大家に呼ばれた八五郎が行ってみると、「お前さんに嫁を世話する」いう。「歳は二十歳、器量は十人並みで、夏冬の道具も一通り持ってくる」という好条件だが、「京都のさるお屋敷に奉公していたので言葉が丁寧すぎる」ということである。 話はすぐにまとまって、今夜、輿入れということで、八五郎の所へその嫁が来ることになった。
 八五郎は長屋に戻り、隣の糊屋のばあさんに部屋の掃除を頼むと、床屋、湯屋へ行って身ぎれいになった。嫁が来るのを待つ間、八五郎は夫婦で飯を食ったり喧嘩をする場面を連想して一人で大はしゃぎをしだす。
 日が落ちて、大家が嫁を連れてきたが、「仲人は宵の内だから」と言ってさっさと帰ってしまった。
 八五郎が照れながら、自分で名前を名乗り、嫁の名前を問うと、「父は元、京都大内産にして、姓は安藤、名は慶蔵、あざなを五光と申せしが、我が母、三十三歳の折、ある夜、丹頂の鶴を夢見てわらわを孕めるがゆえ、垂乳根の胎内を出でし時は、鶴女鶴女と申せしが、それは幼名。成長ののち、これを改め、清女と申しはべるなり」、と答えるではないか。
 八五郎は丁寧で長い名前にびっくりして、「明日、大家と相談して短くしてもらうから」と、ことを納める。
 翌朝、嫁は早く起き出して朝飯の仕度。ちょうど小商人が葱を売りにきたので、「門前に位置をなす、しず(賎)のおのこ(男)」と呼び止め、続けて丁寧な言葉を連発してきたので、小商人はおろおろしているばかり。
 この状況を見た八五郎は出ていって、小商人に訊いた。
「葱は玉葱かい?」
「いいえ、長葱でござんす」
「長いの? やぁぁ、名前だけでたくさんだ」

圓窓五百噺ダイジェスト 48 [垂乳根(たらちね)]より
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