三遊亭圓窓高座本 第31号    「牛褒め」

圓窓五百噺ダイジェスト


あたしはこの噺を圓生の弟子である故圓楽(5)兄から教わった。あの兄が大きな体をして、主人公の与太郎の馬鹿々々しさを表現している高座姿がたまらなく好きであった。豪快の中に俗っぽい笑いを含めた与太郎は他の演者にはなかった。ということは、あたしは演者として自分にないことへの羨ましさをお願いに込めて「お稽古を付けてください」と言ったのだと思う。
その稽古はあたしの前座の頃で、今、思ってもゾ~ッとする。父親が与太郎にの褒め方を教える(落語用語で仕込み部分という)、「〔売る人もまだ味知らず初茄子〕。これはのでございます」を素直に受け入れて三十年も経っちまった頃、「どうやら、あの句は去来のものではない」ということの気づいたのだ。すぐに[牛褒め]を演っている同僚に訊いてみてが、「あたしは去年の句として教わった」と言う返事ばかり。では、誰の句なのか? 俳句に詳しい人に問うても、「去来ではない」は飽きるほど耳にするが、「誰それが作った」の返事は一度も聞けなかった。頭に残った謎はポッカリと大きく空いた穴となって深まるばかりであった。

(圓窓のひとこと備考)
前座噺である。といっても、褒め言葉をしっかりと覚えないといけないので、口慣れるまでは大変だ。与太郎以上に支離滅裂になってしまうことがある。

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