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こだわりの調理器具

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私が修行してきた日本料理の業界では、包丁にかなりの精神性を持ちます。平安時代には庖丁人という役職があり、立場は料理人の上とされていました。包丁式という神事もあり、これは庖丁人が庖丁と真魚箸を持ち、食材に一切手を触れずに捌いて奉納するというものです。後に、神事に関わる庖丁人の仕事を料理人がするようになりましたので、とりわけ日本料理の料理人は包丁に強い思い入れを持っています。和包丁が片刃なのも、食材の細胞を極力壊さぬように作られたからです。椀刺・割主烹従という言葉があるように、お椀と刺身がご馳走で、切る・割るが主、煮るが従という意味で、切る技術を最も重視しています。刺身を引く役割は花板と呼ばれているほど、切るということに執着した料理ですから、包丁にこだわらざるを得ません。和包丁は出刃・柳・薄刃が代表的ですが、どれも使うごとに、刃だけでなく、峰や柄、手元までよく洗剤とクレンザーで磨き洗いした後、砥石で研ぎ、水気をしっかり拭い取って鞘にしまいます。出刃包丁と柳庖丁の刃は緩やかにカーブしておりますから、研ぎ方もそのカーブに合わせて変えます。出刃包丁は、特に部位により目的が違いますので、切っ先は鋭く、手元は緩めに研ぎます。手元を緩めに研ぐのは、骨を叩き潰したりするため、刃こぼれを防ぐようにするのです。このように作業に合わせて道具を調整するのも、日本料理ならではと言えます。

(2016.7.1公開)

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