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磬 石の楽器の誕生と歴史について

1979年の秋、三重県津市で開かれた、日本考古学会で、京都大学・東村武信教授が、「坂出市・金山東斜面は、旧石器時代から縄文に至る石器の素材・原産地である」と云う研究発表がありました。この新聞の特集記事に接し、自分の住んでいる山が、2万年を越える太古から人が駆け巡り、石を運び、生活していた「石器の里」であったことを知った時、衝撃のような驚きを感じました。金山にはこんな、ロマンに満ちた石がある。この石の特質をもう一度、人の暮らしの中で生かしてみたい、こんな思いから石の楽器作りが始まりました。

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 1980年、第1号の石琴 (2.5オクターブ・30鍵からなる木琴のような楽器) が出来てから、36年が経過しました。この間、音楽家をはじめ、地質学・考古学・振動工学・宗教家・芸術家等日本を代表する学者の皆さんが石の里・金山にこられ、それはまさに、石に願望の心があるかと思える程、多くの人との出合いの年月でありました。こうして学術的助言を受けながら、サヌカイトの、固有振動特性や波形の解析を繰り返しながら、多くの学者の知恵を身につけた 「石の楽器」 が誕生したわけであります。

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磬 石の楽器の歴史と復活

 石の楽器・磬は、3500年前の古代中国殷代に・礼楽のために、鐃・つちぶえ・鼓などと共に、八音を構成する楽器として用いられ、磬には、特磬、編磬、頌磬、笙磬、玉磬などの別があり、玉磬は天子の楽器(日・礼記郊特牲)に使われたなどの、記述もあり殷代の磬は、かまぼこ型、台形(底辺が直線に近い)の形状から、周代(BC1050~220年)に至って、「按磬之形如・人・字形」となり五辺の各々の寸法が規定されて、形が定められています。 編磬は十二個(律)を一列につるしたもの、十二律と四清律を加え、上下二段に配したものに発展し、雅楽に使われたと思われる特磬は、第一律の黄鐘・大型板、一個だけをつるしたもので、論語「子撃磬於衛」は、孔子が特磬を鳴らした風景からとったものかもしれません。こうして古代中国で発展した石の楽器は、周代楽器之最珍貴者として周礼、礼記などに見ることができ、礼記・楽器篇・第十九には、「石声は磬なり、磬以て辨を立て、辨以って死を致す。君子を磬声を聴けば則ち封彊に死せる臣を思う。」とあります。

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 このように、石の響きが人の心にあたえる特性が示されるなど、磬によせた古代の人達の思いがしのばれます。殷代から奏楽の器として重用された磬も、やがて青銅楽器の発展と共に衰えはじめ、唐代に至って姿を消すことになります。木柄に掲げた鐃から、磬のようにつり下げた鐘が西周中期(BC900年~800年)に出現し「鳧鐘」(鉦に三十六個の突起物をもつ鳧氏のつくった鐘)周礼にある「鳧氏鐘を為る」の時代をむかえて、石の楽器は殷代から唐代に及ぶ2200年余りの歴史をとじることになりました。おそらく、美しい音色をもつ原石が採れなくなったのか、鳧鐘の華麗さに負けたのか、唐代・天宝年代に至って、磬の歴史が終わっています。

 我が国から遣唐使が往来するようなった、唐代七百五十年頃、磬は華原磬などに変り石の姿は消えてゆきます。正倉院には伝わらず法隆寺に金属製の磬(国宝)が飾られています。我が国の寺院では、磬を用いる形式は今日においてもしっかり受け継がれ、住職の右側には必ず磬台が置かれ、磬の音ですべての行事を指揮する形式が守られています。石の楽器、磬は稀に我が国にも伝わり、現代、中国文化大学の教本の一つになっている『中華楽学通論』の中に、佛家専用之器、面之、日本奈良興福寺所蔵之我国唐代石磬・經『泗濱磬』、其用などの記載例があり、奈良興福寺には泗濱浮磬(国宝)が現存されています。

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美しい音色の秘密

 サヌカイトの硬度は7で水晶よりもやや硬いといわれています。サヌカイトの美しい音色の秘密は、顕微鏡で見るとよくわかります。同じ倍率で見た他の岩石と比べると、サヌカイトは大きい結晶(斑晶)がきわめて少なく、ほとんどガラス質や非常に細かい結晶の部分(石基)でできていて、 これはサヌカイトが特に急冷されて出来たことを物語っており、また、あまりに急冷されすぎて結晶として晶出できずに固まってしまったガラスの部分が多いのも、サヌカイトの特徴の1つで、たたくと金属音を発します。針状の粒が一定方向に並んでおり全体が均質であるため、たたくと振動が打ち消し合うことなく均等に伝わり、美しい音を長く響かせるのだと考えられています。

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 サヌカイトは叩くと音域が広く、高周波成分を含みます。人間の耳に聞こえる周波数は高音を発したときの1万数千ヘルツが限界ですが、サヌカイト楽器には場合数十万ヘルツまで含まれています。サヌカイト石笛の場合叩くわけではないのですが、吹いてみると明らかに堆積岩とは異質な高音が出ます。通常の石笛でも2万5千ヘルツほど出るので、サヌカイト石笛の場合更に高周波音が出ている可能性があります。サヌカイトで出来た楽器の音は実際に生で聴いてみないと十分理解できないかもしれません。機会があればぜひ聞いてください。前田仁が発明した「SOU」という吊り下げられた楽器は倍音成分が非常に多く含まれ、余韻の長さと共に独特な音色を放ちます。これまで聴いたことのない音のはずです。



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