漢方薬の怖い話(葛根湯)

こんにちは、占い師のトナカイです


という内容のツイートを拝見しました
(ツイート主様には掲載許可を頂いております、魔神セントラルドグマ様ありがとうございます)

というわけで、ちょっと小難しい話になりますが漢方薬の葛根湯について少し解説をしようと思います。

1.葛根湯とは

株式会社ツムラ様の公式ホームページでは、以下のように書いてあります

・漢方のかぜ薬として知られ、ひき始めに使われる
 かぜの薬としてよく用いられる「葛根湯」は昔からなじみの深い漢方薬のひとつです。基本的には体力がある「実証(じっしょう)」※の人に向く薬で、かぜの初期などの頭痛、発熱、首の後ろのこわばり、寒気がするが汗は出ないといった場合に有効です。「葛根湯」は発汗を促すことで熱を下げ、かぜを治そうとします。最近の西洋医学的な基礎研究でも、抗炎症作用などが確かめられています。基本的に急性期に用いる薬で、使うのは発病後1~2日が目安とされています。
「葛根湯」はかぜに限らず、鼻炎、頭痛など、炎症が起こって熱が出るような急性の病気の初期にも広く使われます。

・慢性頭痛や肩こりにも用いられる
「葛根湯」は、発熱がなくても、うなじや背中が緊張しているようなときに用いられます。慢性頭痛、なかでも緊張型頭痛や、肩こりの治療でもよく処方される薬です。「葛根湯」は、体を温めることでこれらの症状をやわらげます。
※「実証」:体力や抵抗力が充実している人

株式会社ツムラ公式ホームページ


 葛根湯は風邪に使用されるイメージは非医療者の皆様も持っているかと思いますが、実は慢性頭痛や肩こりにも使用される漢方薬です。

 基本的には体を温める為の漢方で、局所的な炎症を体を温める事で患部に偏った熱を散らしたり、体温を上げる事でウイルスに対して有利に働けるようにするものです。

2.漢方薬とは

そもそも「漢方薬」ってなんなんでしょうか。

ちょっとその辺を簡単に解説します。

 漢方医学は、中国を起源とする日本の伝統医学で、中国から直接あるいは朝鮮半島経由で伝来し、日本で独自の発展を遂げました。

 中国を起源とする伝統医学は、現在の中国では中医学(ちゅういがく)、韓国では韓医学(かんいがく)と呼ばれており、起源は同じながら漢方医学とは異なった医学体系を形成しています。

 使われるくすりもそれぞれ「中薬」「韓薬」と呼ばれ、漢方薬とは区別されています。

 そもそも「漢方」という名称は、江戸時代中期にオランダから入ってきた医学を「蘭方」と呼び、従来の日本の医学を「漢方(漢に由来)」と呼ぶようになったことから始まります。

 漢方薬は「生薬」と呼ばれる、自然界に存在する植物、動物や鉱物などの薬効となる部分を、通常は複数組み合わせて構成されています。

 漢方医学では、患者さんを心身両面から総合的に捉え治療するという全人的医療の考え方があり、また人間が本来持っている自然治癒力を高めるという考え方があります。

 そのため漢方薬は、体質に由来する症状や検査に表れない不調の治療に頻用されます。

 生薬の組合せが変わると、ある生薬の薬効が増強されたり毒性が抑制されたりして、有効性や安全性が大きく変化するのが特徴です。

 現在の医療の場において、漢方薬は主に生薬を煎じた液を乾燥させて得られるエキスを顆粒状にしたエキス製剤が使用されています。

因みに葛根湯は
葛根(カッコン)
大棗(タイソウ)
麻黄(マオウ)
甘草(カンゾウ)
桂皮(ケイヒ)
芍薬(シャクヤク)
生姜(ショウキョウ)
の7つの生薬が組み合わさってできている漢方薬です。

3.漢方薬だから副作用はない

これ、多くの人が勘違いしています。

トナも臨床の現場に出て薬の説明をしている時に

「漢方薬だから(副作用はないので)説明はいらない」

と言っている患者をよく見ます。

ただ残念ながら漢方薬にも副作用はあります。

生薬に対してのアレルギーもそうですが、よく医療界で言われるものには
・偽アルドステロン症
・間質性肺炎
・肝機能障害
などが挙げられます。

 そしてこれらの副作用は肝臓や腎臓の機能が低下している高齢者や、漢方薬を数種類服用している人。

 そして体重の軽い女性などに多く報告がされています。


4.実際にトナカイが体験した例

 これ、ワンチャン患者が死んでいた可能性のある話なので笑い話ではないんですが。
 2015年に物忘れを改善する生薬として「遠志(おんじ)」が認められました。

 これは処方薬にも含まれる生薬ですが、ドラッグストアなどでも購入できる為、一般の消費者は薬というよりは「サプリメント」という立ち位置で認識している事が多いです。

 で、その方が血液検査を受けたんです。

 そして血液検査の結果を見たらビックリしたそうです。今まで正常だった血糖値が高くなっていたのです。

 その方には糖尿病の治療が行われました。血糖を下げる薬が処方されたのです。

 病院で「今使っている薬はあるか」という質問をされましたが、その人は遠志をサプリメントと認識していたので、医師には

「使っている薬はない」

と告げたそうです。

そうなんです。
遠志は血液検査に影響してしまうんです。

血糖値が通常より高く出る事があります。

 その人が血糖を下げる薬を服用した場合、その人に待っているのは「低血糖」という死に直結する副作用です。

 幸い、その患者さんはトナカイにサプリメントを飲んでいる事を告げてくれた為、その薬を飲むには至りませんでした。

 ただトナが遠志に気付かずスルーしていたらと思うとゾッとします。

5.葛根湯の何が危険なのか

さて、ツイートの話に戻ります。
葛根湯には先ほども書いた通り、「麻黄」という生薬が含まれています。

 麻黄はその学名をEphedrae(エフェドラ)、主要アルカロイド成分でエフェドリン(Ephedrine)が含有されています。

この「エフェドリン」の構造式に注目してみて下さい。
そして下が覚醒剤である「メタンフェタミン」の構造式です。

いかがでしょうか。

めちゃくちゃ似てます

ほぼ水酸基(-OH基)一つの違いだけと言っても良いくらいです。


 このように化学的に構造がとても似ていることが、スポーツ選手のドーピング偽陽性問題に関わってきます。

 因みにトナカイはアンチドーピングに関わる資格を持っていますが、麻黄の入った風邪薬などはオリンピック選手などには使用できません。

 エフェドリンには、勿論メタンフェタミンのように強力ではありませんが、やはり中枢神経・交感神経系に対して賦活作用があります。

 なので麻黄含有の薬の副作用欄には

「不眠・発汗過多・動悸・精神興奮」

 など、交感神経系への副作用の可能性が列記されています。

6.やだ! 葛根湯怖い!

って思うかもしれませんが、実際はそんな事はありません。

 高齢者や高血圧患者、甲状腺機能異常の方などでは慎重に対応するべきことは確かにあります。

 ただ米国で問題になったような高用量のエフェドラによる重篤な副作用の事例は極めて稀なことです。

 それは漢方薬で用いられる麻黄は、経験的に安全な投与量が設定されていること

 そして様々な生薬との配合の中でその作用を発揮するように考えられているからです。

 さて、それではもっと論理的に考えてみようと思います。

 まず、葛根湯の1日量である7.5gに含まれている麻黄は3gです。

 そしてそこから、麻黄3gにはどれくらいのエフェドリン量が入っているのかを計算していきます。

 第16改正日本薬局方によれば、麻黄の乾燥品の定量時には、0.7%以上の総アルカロイド量が規定されています。

即ち、単純計算ですが麻黄3gの中には

3000mg(3g)×0.007(0.7%)
=21mg

なので、21mgのエフェドリンが含まれる事になります。

 またこれは「麻黄に含まれるアルカロイドの100%がエフェドリンだった場合」の話ですが、実際は70%程度なので

21mg×0.7(70%)
=14.7mg

 なので、大体葛根湯1日量の中には、14.7mgの麻黄が含まれている事になります。

 さて、それではエフェドリンは1日の中でどの程度摂取して良いのかという事になります。

7.エフェドリンの上限量

 エフェドリンの常用量はエフェドリンの添付文書から見つける事ができます。

 添付文書によれば、エフェドリンの常用量は「75mg/日」となっています。

 つまり、この程度の量を必要以上に(それも素人判断で)摂取するのは危険という事になります。

 また前述の通り、これは高齢者や肝機能、腎機能が衰えている方、また女性の方などには副作用が出やすいという背景から。

 そのような方には75mgのエフェドリンを敢えて使用するメリットがない事も多いです。

 なので、健康成人の場合「麻黄の成分だけを見れば」葛根湯は通常の5倍量程度服用可能という事になります(他の成分の兼ね合いで実際はそんな量入れたら危険なので絶対にやらないで下さい)

「じゃあ葛根湯を通常量、毎日飲んでも問題ないじゃん」

そう思った方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、そうなんです。

ただそもそも薬って

「飲まなくていいなら飲む必要がない」

という大前提があります。

そして副作用には

「一度に大量に摂取したからなる副作用」

というパターンと

「長期間服用を続けた結果生じる副作用」

というパターンがあります。

特に漢方薬は、比較的長期で服用される事が多い薬です。

そして、その中でも葛根湯は比較的急性期によく用いられる漢方で

慢性頭痛などでは低容量から始めたり

他の疾患による副作用リスクがない事を

プロの目から判断して処方をしています。

また、麻黄が含有された薬には色々なものがあって

例えば、咳止めであるアストフィリン(市販薬)
アストフィリンには、エフェドリンが18.75mg含まれています。

そして同じ漢方薬である小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
アレルギーや花粉症の薬としてよく使用されます。
これにもエフェドリンが14.7mg含まれています。

海外のダイエット系サプリメントには未だにエフェドリンを含むものがあったり

一緒にコーヒーを飲む人には、カフェインにもエフェドリンと同様に交感神経刺激作用があるので併用には注意が必要です。

つまり、作用が一切違う為に麻黄が重複してしまい、副作用が出てしまう恐れがあるのです。

勿論、肝機能・腎機能の衰えた方、体重の軽い女性の方は、更に副作用が生じる可能性が高まります。

つまり、慢性的な頭痛や肩こりをお持ちの方であっても

「薬に頼らなくて良いなら頼らない」

という思想は常に持つべきです。

ただ症状が出ている時はそんな事は言っていられないので

「できるだけ薬を使わないで生活ができるように、早目に薬を使って治そう」

となるべきだと、トナは思います。

なので

「漢方だから良いや」

とはならずに

きちんと診断のプロである医師や

薬のプロである薬剤師に

「薬を飲み始める」

という事があった場合、それがどんなに些細な事であっても、相談する事を強くお勧めします。

そしてこのnoteを読んでいただいている占い師の方々

「漢方だから副作用はない」
「サプリメントだから勝手に飲ませて問題ない」

そんな勘違いをしていると

いつか、マジで人を殺します。

必ず医師、薬剤師に相談をしてください。

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