「弁護士数は増やすべきか」

一部の代表弁護士らが主張する「弁護士を増やせ」理論について検討してみます。

まず、結論から言うと、弁護士を増やしても業界の利益になりません

弁護士を増やせ理論の多くは、地方に弁護士が足らないから弁護士を増やせと主張します。

もしくは、地方に限らず「人材」が足りないから弁護士を増やせと主張します。


◼︎地方に弁護士が足りない理論


「地方に弁護士が足りない」というのが真実か否かは評価を含む問題ですが、一応真実としましょう。確かに、過疎地で弁護士が足りていないという事実があるのは確かでしょう。


しかし、そもそも地方に弁護士が足りないから弁護士を増やせという発想が人間性を疑うような極めてお粗末な考え方です。

この主張をする人は、弁護士を増やせば、競争の激化により東京などの都市で弁護士として食べていけない人が出てくるので、その人たちが食べていくために地方に進出する人が出てくるだろうという発想です。

他人の不幸で問題を解決しようとしているので明らかに倫理的に問題があります。


しかも、競争が激化したところで地方に進出するとは全く限らないです。

薬事法違憲判決で、審査密度を強めた理由として特定の地域での開業の断念は開業そのものを断念させるというものが挙げられていますが、要するにどこの地域で働くかは仕事選びの非常に重要なファクターだということです。

そもそも、弁護士が地方に行かないのは、地方での生活に魅力を感じていないからです。

これを解決するには地方の経済を活性化させる必要があります。

ですから、地方の弁護士が足りないのは、地方創生という政治で解決すべき問題であって、弁護士数を作って競争を激化させるとかそういう発想自体が合理的とは到底言えません。

◼︎人材が足りていない理論


まず、人材が足りていないという事実が真実か否かも評価次第ですが、たしかに企業内弁護士などが足りないという声を聞くので、ここでは一応この事実が認められるとして話を進めましょう

そもそも、司法試験合格者は現在でも1500人程度は毎年出ています。

今引退している世代は旧司法試験時代の合格者が数百人程度の人たちなので、最低でも毎年1000人は弁護士が増えていると言えるでしょう。
(データを正確に把握しているわけではありません)


この人材というのが優秀な人材を意味するなら、現在の司法試験が論文の倍率を2倍切るようなかなり低い倍率であることも加味し、ギリギリ合格の論文試験の答案が出題趣旨をかなり外していることも加味すれば、合格者数を増やせば合格ラインが下がるだけで優秀な人材が増えるとは到底思えません。

したがって、人材が足りないことと弁護士数は因果関係がないと言えます

そもそも、企業内弁護士が足りないのは、企業内弁護士の待遇の問題であったり弁護士が企業内弁護士になりたいかというニーズの問題であって、弁護士数の問題ではありません。

これもやはり政治が解決すべき問題と言えるでしょう。

◼︎弁護士数が増えるデメリット


弁護士の仕事は医者と同じです。資格の権威性に支えられています。

資格の権威性は、資格の取得難度と希少性に支えられています

例えば、医者の仕事は、医者の権威性に支えられています。

医者が市民に対して権威として振る舞っているからこそ、我々は病院に行って、医者を信頼して病気の診断を任せて処方箋を受けたり、手術という危険な行為を医者に任せられるのです。

そして、この医者の権威性を支えているのは医学部入試の難しさと、医学部での教育及び国家試験です。これらを総合して医者の選抜・教育システムと言っていいでしょう。

弁護士もこれと同じで、弁護士の仕事は弁護士の権威性に支えられていると言っていいでしょう。

弁護士の権威性の根拠は、明らかに司法試験の難易度といえます

しかし、弁護士数が増えると、弁護士の価値が減ります。供給が増えるので希少性が下がるので当然です。当然、収入も減ることになります。

そして、合格者数が増えると、司法試験の難易度は当然下がります。

しかも、少子化傾向は進むばかりの中で、合格者数が増えると、掛け算方式で同世代に占める弁護士の割合が増えます。

そうすると、弁護士の価値が下がります。

弁護士の権威性も低下します。

この負のスパイラルによって、弁護士の待遇はどんどん悪化します。

法科大学院設立後で合格者数が2000人を超えていたような時代は民間の初任給と変わらないぐらいの給料で買い叩かれていたのがその例でしょう。


そもそも、今の令和4年の司法試験は論文の倍率が2倍を切っておりかなりの低倍率で、合格水準が高いとは到底言えないでしょう。

問題の難易度や知識の要求量もかなり低下が見られました。(かといって理解を深く聞いているわけでもない)

今の時点で、弁護士資格の価値は十分低下していると評価する向きもあるでしょう。


したがって、そもそもみだりに弁護士数を増やすのは業界のためにはならないです。

経済が停滞している以上、弁護士の市場規模も増えませんから弁護士数を増やすのは非常に危険な行為だと言えるでしょう。。

(現在不景気で、景気が戻る見込みも全くありません。)




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