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新今宮のホテルから


取り留めない雑文になると思う。雑に読んでくれる人がいれば嬉しい。

深沢七郎の『書かなければよかったのに日記』が頭がどうにかしそうなほど面白い。しかしまあ、面白いと思おうが思わなかろうが、頭がどうにかなる類の本だ。放浪の軌跡を、狂いながらも淡々とした独特の文体で綴っている。

昔住んでいた町の本屋で買った。当時はよく立ち寄った店だ。相変わらず良い店のままで嬉しかった。
海外のzineが大量に置いてる尖った店なのだけど、いつかブラマヨ吉田のエッセイ集『黒いマヨネーズ』が平積みされていて、ここの店主の目は本当に確かなのだなと感動した。黒いマヨネーズはまじで並ぶものがない名著なので未読の方は読んでほしい。

しんどい思いをした町に行くのは良い。いつの日か必ず殺すと決めている相手への恨みを思い出せる。
とかく酒を浴びるように飲んで暮らした場所だ。そこで深沢七郎の鬱々とした放浪日記なんて落手したものだから、それから当時の憂鬱が蘇ったようで無闇に酒を飲んでしまう。困ったものだ。
契約の手続きを進める不動産屋、見積もりを頼んだ引越し業者の連絡を無視してしまっている。なるようになれば良い、という気分でいる。

大阪に戻ってきて、実家を拠点に部屋探しをしていたのだけど、ちょっと前に新今宮の宿に移った。
どうにも俺は他人といると無自覚にストレスを感じるらしく、アトピーの悪化がひどかったのだ。ホテルに移ってから、凄い勢いで悪化した肌が凄い勢いで治癒してる。良かった。

手狭な、といっても標準的なレベルの、なんてことはないビジネスホテル。すぐそばに南海電車が走っていて、たまにその走行音が二重窓の向こうから薄く聞こえる。
電車の音を、待つともなく待ちながら、無機質な部屋で深沢七郎を読む。
気ままに寝て、腹が減ったら新世界で串カツを食べてビールを飲む。
俺が大阪に来たのは、実は引越しなんてことがしたかったのではなく、この日々を過ごしたかったのかもしれない、という気がしている。

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