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まるお食文化エッセイ『ユーミン恋酒論』

 拙書『名誉唎酒師のばかやろう!』で、名古屋を代表する幻のシンガーソングライター門あさ美さんの楽曲から『門あさ美恋酒論』を執筆した。今回は恋酒論第二弾『ユーミン恋酒論』である。松任谷由実(ユーミン)さんの曲にはお酒の歌詞があまり多くない。ユーミンの全盛期の頃は、高校生や大学生あたりの20才台前後をターゲットにしていたからというのが大きな要因なのではないだろうか。1980年代から90年代頃、環八用賀IC近くにあったファミレス『イエスタディ』でユーミンが若者の恋バナをこっそり盗み聞いて歌詞にしているという実しやかな噂が流れていて、あたしゃユーミンがいるんじゃないかと思って何回か行ってみたよ。いるはずないわね。

 私も大学生の頃は彼女とよく車の中でユーミンを聴いていた。ユーミン=青春だったからね。特に一時期、名古屋と東京の遠距離恋愛だったので、JR東海の『シンデレラエクスプレス』がぴったりはまり、脳内で曲が流れて、ホームで分かれるときに彼女はめそめそ泣くし、思わず抱きしめてチューでもしたろうかと思ったけど、恥ずかしがり屋の私はよーせんかった。愛し合っていても、いつか決別は来るもので、彼女が、「今の気持ちは青春のリグレットなの」とか、「DANG DANGを聴いて!」とか、直接別れを言われる代わりに歌詞を引き合いに出されてよく振られていた。「この歌詞が私の気持ち」といわれても、いつもえーころ加減に聴いているので、家に戻ってから改めてじっくり聴いてみれば、『私を許さないで憎んでても覚えてて』とか『あなたにふさわしいのは私じゃないって』とか勝手なこと歌やあがって……一晩中枕を濡らしたよ。

 ユーミンの曲は400曲以上あるらしいが、このうち酒らしき歌詞のある曲は17曲しか探すことができなかった。これは多いのか少ないのか?どうなんだろね。

 お酒の区分は、カクテル系(カクテル1、マティーニ2、ダイキリ1)、リキュール系(カンパリ1)、ワイン系(シャンパン2、グラスに立ち上る泡1、ワイン2)、蒸留酒系(ウイスキー1、ウイスキー?ダブル1、ウオッカ1、テキーラ2 )、その他(ビール工場1、ドランカー(酔っぱらい)1)。さすがに、日本酒や焼酎は出てこない。

 「ダイヤのため息 のみ干すマティーニ はじめて知ったの 恋の苦さを いますぐ会いたい…(恋の苦さとため息と)」「カレンダーでもマティーニでも消せなかったあなたにしか(Walk on, Walk on by)」

 マティーニは、ジンとベルモットで作られるショートカクテルである。ベルモットの苦味から、恋の苦い経験を思わせ、そしてそれを強いアルコールで忘れたいという表現に使われている。ちなみに私はマティーニは呑まなくて、マティーニロックを呑むことが多い。だってショートカクテルは量が少ないんだもーん。

 「灼熱の太陽を体中に浴びながら. ダイキリ色の海へ身を投げ出しましょう(110°F)」

 ダイキリは、ラム、ライムジュース、砂糖で作られるショートカクテルである。ダイキリは白いの色のカクテルであるので、波打ち際の海の色を表していると思われる。

 『ダイアモンドダストが消えぬまに』では、ダイビングのときの海中の泡をシャンパンの泡に例えている。「Diamond Dust 幾千の泡をしたがえて二人旅をした海の底. Diamond Dust シャンパンをそっとのぞいたら帰りたかったの去年へ」

 1992年に放映された『冬彦さん』で有名なドラマ『ずっとあなたが好きだった』の主題歌『真夏の夜の夢』。「骨まで溶けるようなテキーラみたいなキスをして」テキーラみたいなキスってどんなのでしょう?テキーラは、メキシコの酒で主原料はアガベ・テキラナ・ウェベル・バリエダ・アスルという竜舌蘭の球根『ピニャ』から造られる蒸留酒である。テキーラというとアルコール度数が高そうに思う人がいるが、38-55度という決まりがあり、大半は38-40度くらいだから一般のウイスキーと同じくらいである。テキーラの種類は豊富で、色も透明なものから樽熟した琥珀色のものもある。透明なものはハーブのような青い香りやフルーティーな香りがある。私個人の意見だが、透明な蒸留酒の中ではテキーラが最も魅惑的なのではないかと思っている。樽熟したものはバニラ香やキャラメル、ドライフルーツのような香り、白胡椒や黒胡椒のようなスパイシーな香りもある。テキーラみたいなキスとは、時には青い香り、時には甘い香りがあり、力強さとまろやかさを感じる大人のキスなのかもしれない。以前、錦三丁目にメキシカンバーがあって何十種類ものテキーラが飲めてとても気に入っていたのだが、テキーラに詳しい店長が辞めて、ガールズバーみたいになってしまってからは行かなくなってしまった。女の子はめちゃ可愛かったけどね。また、数年前に大学の先輩に連れられて南米系の女性がいるお色気満点のお店に行ったことがある。コロンビア人かどっかの女の子から「テキーラチューシャ(注射)!おチューシャしよう!」といわれ、注射器に入った酒を口に注入された。テキーラが大好きな私は、へらへら喜んで注射されてみたのだが、注射器の中身はなんと安もんのブランデーの薄い水割りだった。「なんじゃこりゃ!まっずー!ほんもんのテキーラをストレートでもう一回おチューシャしてちょー!」と叫んでしまった。


カクテル:『別れのビギン』作詞作曲:松任谷由実
マティーニ:『恋の苦さとため息と』『Walk on, Walk on by』作詞作曲:松任谷由実
ダイキリ:『110°F』作詞作曲:松任谷由実
カンパリ:『避暑地の出来事』作詞作曲:荒井由実
シャンパン:『ダイアモンドダストが消えぬまに』『Bonne année』『グループ』作詞作曲:松任谷由実
ワイン:『groove in retro』『HONG KONG NIGHT SIGHT』作詞作曲:松任谷由実
ウイスキー:『トランキライザー』『街角のペシミスト』作詞作曲:松任谷由実
ウオッカ:『結婚ルーレット』作詞作曲:松任谷由実
テキーラ:『Holiday in Acapulco』『真夏の夜の夢』作詞作曲:松任谷由実
ビール工場:『中央フリーウェイ』 作詞作曲:荒井由実
ドランカー:『思い出に間にあいたくて』作詞作曲:松任谷由実

私の本買ってね『名誉唎酒師のばかやろう!特別サイン入り』

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