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世界の多極化と日本


・第一次大戦から第二次世界大戦を経て構築された世界の20世紀秩序。それに比類される大きなシステム転換が今進行中である。

・ワシントンコンセンサスという名の新自由主義グローバリズムは、その中枢が運動を停止して久しい(イギリスのブラウン首相が「ワシントン・コンセンサスは終わった」と言明したのは2009年。その後は頭がないままに胴体や尻尾が動くゾンビ状態であった)。そしてその後に来たるべきポスト資本主義の社会をめぐって、グローバル統一政府による世界統治(G7、欧米勢主導のグローバル・リセット)か、それとも欧米勢と対抗する露中印を軸とした多極主義的な世界統治か、をめぐって熾烈な争いがこの間繰り広げられてきた。

・アメリカ・ファースト主義という名の多極主義者であるトランプが、機能不全を起こし腐敗が顕在化した20世紀システムに”仁義なき戦い”を挑み、これによる世界秩序の流動化が進行してきた。この21世紀の世界システムをめぐるグレート・ゲームは、核戦争の現実的脅威を世界中の人々に実感させたウクライナ紛争をもってほぼ終わりに近づいてきた感が強い。6月23日に北京で行われるBRICsサミットは、21世紀における多極的世界統治システムの時代の到来を象徴する機会になるであろう。今年米国における中間選挙で勝利するであろうトランプ・共和党は、この21世紀多極型世界統治の枠組みを「事後承認」することになる。

・こうした21世紀の多極的世界秩序は、それ自体が一部のスピリチュアル系の人々が言うようなハッピーな世界を直ちに意味しないし(”ポップコーンを食べながら”テレビを見ていても”次元上昇”は起こらない)、またリベラル知識層が考えるような悪夢の到来でもない。

・これまで米国主導の侵略戦争や欧米による事実上の植民支配に苦しめられてきた諸国の人々にとっては、光明であることは間違いない。他方西側欧米主導の世界秩序の下にあり続けることを選択した、日本を含めた国々は、今後かなりの試練が訪れる。特に事実上財政破綻している米国において公式の破産宣言がなされた場合、世界最大の米国債権保有国である日本は、凄まじい信用収縮を経験することになる。

・トランプは在任中、金融リセットに向けて着々と準備を進めてきた。トランプが任命したパウエルFRB議長はリーマンショック以降の異次元の量的緩和策の終了というトランプが敷いた基本路線を継続し、さらに加速させている。米国財政破綻の顕在化によって、ドル基軸通貨体制を前提に国債発行によって維持されてきた日本の財政金融システムは、事実上のリセットモードに入らざるを得ない。現在の国家財政規模を前提とした各種の国家政策(社会保障、教育関連を含む)も予算上の裏付けを失うことになるだろう(日本の国政政党の政策内容も様変わりする。なおMMT論者には国際金融問題の認識が希薄で、為替の急激な変動による日本の国際収支の赤字転落に伴うMMT理論の有効性喪失という事態は想定外のようだ)。そうなれば、今はまだ部分的な取り組みに留まる地域循環型経済は、他に選択の余地のないまったなしのものとなる(ブロックチェーンによる地域・コミュニティー通貨も急速に拡がるとともに、国政と地方政治の主客転倒が起こる)。

・ウクライナ紛争においてバイデン政権に追従しアジアのどの国よりもロシア敵視を際立たせ、中露印+トランプ主導の多極化の流れに背を向けた日本は、アジアにおいて孤立する可能性が高い。日米安保体制は、近い将来、新モンロー主義(アメリカ一国主義)を突き進むトランプ勢の再登場によって大きく揺らぐことになる。習近平やプーチンと深いところで通じているトランプ勢は、もっぱら国内の雇用対策として米国製のポンコツ兵器を日本に買わせる一方で、中長期の外交・安全保障戦略としては日本が日米安保体制から脱去することを促してきた。安保ムラの住人たち(政治家、官僚、マスメディア、経団連)は、リアルな安全保障上の必要からではなく、もっぱら政治的・経済的権力保持の必要から日米安保体制にしがみついているが、彼らが日本の権力の中枢に居座り続ける限り、上記の21世紀における世界の多極主義的な巨大潮流から取り残され、日本の窮乏化が進み、いずれは中露印主導の極東アジア秩序に従属的に組み込まれることになるだろう。

・中国とロシアの脅威を必要以上の喧伝し、9条改憲と軍拡によりアジアの緊張を高める勢力は、そうした日本の新たな従属体制を招き入れるトロイの木馬の役割を果たしている。いわゆる護憲派政党も、上記のような世界情勢の認識を確立できておらず、従って有効で具体的な外交・安全保障政策を提起できていないため、改憲・軍拡勢力や権威主義を勢いづかせることになってしまっている。

・ウクライナ紛争を経て、世界では未曾有のインフレ・食糧危機の脅威に直面しつつあるが、ロシア制裁に加わらないこと、従ってドル基軸通貨体制からの脱却(多極化)の方向性を選択した日本以外のアジア諸国は、潤沢な資源とこれに裏付けられたバスケット国際通貨体制の下、相互支援と貿易を通じて、この危機を乗り越えてゆくことになるであろう。これに対して、ロシアから非友好国(敵国)認定され、さらに中国脅威論を喧伝しつつ(核を含む)軍拡路線を進む日本が、いずれ日米安保の後ろ盾を失ったとき、窮地に立たされることは明らかではないだろうか。

・護憲勢においては、よりリアルな世界情勢認識、それをベースとした外交とインテリジェンスを軸とする安全保障、国際政治経済の構想が求められている(米国政治やコロナ”パンデミック”、ウクライナ紛争については既存政党よりもリアルな認識に立つ参政党も、中国脅威論のバイアスが強く、またデジタル監視国家体制へのリスク感度が低いために、現状においてはトータルで見れば事態を悪化させる可能性がある)。


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