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『宮本、独歩at作業場』 宮本浩次は解き放った、新なる己の姿を。

宮本浩次は自らの54歳の誕生日である6月12日にバースデーライヴなるものを行った。コロナウイルスで世間が混乱している中通常のライブハウス等では行えないので急遽wowowで無料ライヴという形で配信された。彼が数々の名曲を生み出している作業場から生中継である。宮本は今回のライヴをアルバム名と同様に『宮本、独歩』と銘打った。本来であるならばツアーを行うはずであったにも関わらず新型コロナウイルスの影響の為中止せざるを得なくなってしまった。私も高い倍率競争に勝ち抜き参加券を手に入れたにも関わらず中止になってしまい実に残念、無念であった。正直、『宮本、独歩』の為に今年は生きていたといっても過言ではない。然し、私以上に深く落胆した人物は宮本浩次自身であろう。長く夢見たソロ活動を、彼に言わせれば”外的要因”で潰されてしまっては無念以外の何モノでもないだろう。然し彼は諦めなかった。どうすれば自分の歌を我々ファンに届けられるか模索した結果が今回のオンラインライヴである。ライヴが発表された時私は大変に嬉しかった。また、宮本の声が聞けると。然しそれと同時に暗澹たる不安も生じた。果たして、オンランライヴであの宮本浩次は100%の己を解き放てるのか。どうかすれば怒って帰ってしまうのではないか。然しそんな不安も杞憂に終わった。宮本はステージでもオンラインでも自らの溢れんばかりのエネルギーを解き放てる男なのであった。

セットリスト

宮本は見慣れた革製のソファーにアコースティックギターを持って着席していた。目の前にはこれまた見慣れたテーブルとその上に何やら薄い本とぺんが置いてあった。おもむろに本ペンをとるとサラサラと何かを書きそしてそれをカメラの方へ向けた。薄い本の正体は『宮本、独歩』のパンフレットであった。そこに些か見えにくかったが『ひきがたり』と書いたのである。当日のお召し物は革靴に黒いスキニーパンツ。N.ハリウッドの白シャツに黒を基調とした白い斑点のついたネクタイでジャケットは黒のダブルジャケットであった。

成程、今回のオンラインライヴは座って弾き語るのだなと思ったのも束の間。一曲目の『夜明けのうた』が始まるとすぐに立ち上がって画面から見切れてしまった。すると画面が切り替わりさぎょうばのぜんたいふうけいが映し出された。そこには何台もの無人カメラが準備してあったのだ。宮本は歌唱中縦横無尽に作業場を行き来していた。『冬の花』も同様に縦横無尽に移動し鬼気迫って歌い上げていた。最初からよく声が出ていた。

『孤独な旅人』は今の宮本と重なるものが多くて様々なことを思っていたら涙が出そうになった。『孤独な旅人』が終わると準備されたスタンドマイクの前に立った。ギターを変え「フェンダージャガー」と紹介して『悲しみの果て』が始まった。後半のアレンジは天に突き抜けるような宮本の高音が聴けた。石巻で行ったフェスと同様のアレンジであった。このアレンジを聞く度、エレカシ浪人中の下北シェルターで初披露された初々しい『悲しみの果て』を思い出す。

宮本はmacの前に移動して何かを説明しようとしたが言葉が出なかったらしく諦めてボタンを押した。すると『解き放て、我らが新時代』の打ち込みビートがなり始め宮本が暴れ始めた。大変格好良い。曲が終わり再びギターチェンジ。今度はレスポール。そして軽快な『going my way』が始まった。曲の終盤宮本がどこかに消えて何かを持ってきた。曲が終わってから彼の紹介で何かが判明した。『月桂冠 THE SHOT』である。一応説明しておくと宮本はこのcmに出演しcmソングに起用された曲が『going my way』である。

再びアコースティックギターにチェンジして高橋一生氏に提供した楽曲『君に会いたい-Dance with you-』をセクシーにそれでいてワイルドに歌い上げた。次いで椎名林檎氏の紹介をした後コラボ曲である『獣ゆく細道』を歌い上げた。女性パートも自らのパートも歌っていた。女性パートを歌う時は若干内股だった。

そしてエレファントカシマシのヒット曲『俺たちの明日』である。アコースティック一本のはずであるが開幕私は一瞬バンド演奏に聴こえた。先ほどのようにパソコンから音源を流しているのかとも思ったがどうも違う。私の幻聴だったようだ。宮本は縦横無尽に動き回りついに作業場の扉を開けてスタッフがちらと写ってしまった。皆、嬉しそうに笑っていた。

続いて椅子に座り直しアコースティックを弾き始めた。聴きなれないコード進行であったから新曲か?と思ったがまさか以外の『赤いスイートピー』であった。今回もCovers、Mステ同様原曲キーであった。一音一音噛みしめるように丁寧に歌っていた。次いで『デーデ』のイントロを弾き始めた瞬間に中断した。何か、と思ったらどうやらチューニングが狂ってしまったようだ。チューニーングをし終わった後弾き始めたのはまさかの『珍奇男』であった。『赤いスイートピー』からの『珍奇男』は誰も予想出来ないだろう。カメラに向かってまるで誰かを小馬鹿にするように狂気を孕んだ表情で歌っていた。次いで『デーデ』これもまた何か今の世間の風を嘲笑うような歌い方であった。

東京スカパラダイスオーケストラの紹介をして歌い始めた。足りないピースは自らの声で補っていた。力強い歌い方であった。そして「行こうぜ」と言って始まったのが『旅に出ようぜbaby』縦横無尽に動き回りながら陽気に歌っていた。その姿は正に”陽気な冒険者”であった。

流石にこの後半であるから宮本も疲れた様子であった。そんな中で歌い始めたのは『昇る太陽』である。アルバム『宮本、独歩』の中でもいや、最近リリース他の楽曲の中でも特に難しいであろう曲を持ってきた。私は心配した。然しそんな心配もすぐに忘れた。宮本はとんでもない声量で歌い上げたのである。私はヘッドフォンをして視聴していた故、まるですぐそばに宮本が歌っているかのような錯覚に陥った。パワフルでハートフル。私は余りの凄さに唖然とした。正に咆哮。彼は怪物である。

最後に宮本が「ありがとう」と言って『ハレルヤ』が始まった。最後の曲とは思えないほど元気に動き回っていた。椅子の上やテーブルの上。そしてドラムに座って演奏し始めたりなど。正に自由であった。その姿に私は勇気を与えたれた。こんなご時世だからこそ『バカらしくも愛しきこの日々を ああ涙じゃなく笑いと共にあれ     ハレルヤ』という歌詞が身に染みる。

曲が終わり宮本は我々ファンに感謝の気持ちを述べた。そして「第二部もあります」と言って作業場をさっていった。私はしばらく待ったがどうやら第二部は7月に公開されるらしい。

前代未聞の試みであるオンラインライヴはこうして終わった。まさしく圧巻の一言に尽きる。観客が誰一人としていない空間で宮本がライブをやっていた。それによってステージ上よりグッとパーソナルな彼を見ることができた。さらには初期の頃のような反応してはいけないライヴをも思い出した。このことから言えることは歌手、宮本浩次はいつの時代もどこの場所であっても真剣勝負、全力投球なのである。

赤裸の宮本浩次が全てを解き放った。それは彼の新たな歴史を告げるシグナルだ。私は其の様に思う。




是非、ご支援のほどよろしく👍良い記事書きます。