見出し画像

教育実践者が楽しく学べる、認知科学・学習科学の勉強会を開催しました

 何年も前から、教育実践者で集まって勉強会を開催したいと思っていました。8月6日に開催した勉強会は、平日にも関わらず様々な立場の方が参加して下さって、楽しく有意義なものとなりました。終了後には、「楽しかったです」「ためになりました」という感想を頂き、参加者全員が、今後も継続して勉強会に参加したいと言って下さいました。本当に嬉しいことです。これから参加される方のためと、今回の覚書として、勉強会の内容を簡単にまとめておきます。用語については今回取り上げた書籍のものを使い「⇒」の後には、話題にあがったことや、私の方から補足したことを入れています。

<誰もが教育実践者>
 最初に教育実践者と言いましたが、ほとんどの皆さんが当てはまるに違いありません。会社で部下や後輩の教育をしたり、学校や塾で生徒に教えたり、研修や講座の設計や実践をしたり、自分の子どもの宿題を見てアドバイスをしたり、子どもに紐の結び方を教えることだって教育の実践です。こういった教育の実践者が経験や勘で良い方法を探るのではなく、「人はどのように学ぶのか」という根本的な仕組みを知って関わろうとするならば、相手(学習者)の頭の中で起こっていることを想像するようになり、より良い声のかけ方がわかったり、よりよい講座やコンテンツの設計方法がわかることでしょう。
 また、「人はどのように学ぶのか」を知ることは、自分の学びを調整できることにつながるので、人生100年時代において、幸せなlifelong leanerでいられると思うのです。

<今回学んだ内容>
 
平日開催で、当初は子育て中の方の参加が多くなることを予想していたため、読み合わせたのは「授業を変える~認知心理学のさらなる挑戦~」の第4章「認知発達~子どもはいかに学ぶのか~」でした。実際には、大学関係の方々、教育の大学院生の方々、子育て中の方々など、様々な立場の方にご参加頂くことができました。乳幼児期の認知発達について学んだわけですが、これが人の発達のベースになるし、成人の学びとの共通点もあるわけで、皆さんも大変関心を持って下さいました。**

<乳幼児の学び>**
 ・乳幼児は外部の刺激を白紙に書き込むだけではない

 ・例えば、ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)の認知発達段階
  1 感覚運動段階 0~2歳
   感覚と運動が表象を介さずに直接結び付いている時期。
       2 前操作段階 2~7歳
   他者の視点に立って理解することができず、自己中心性の特徴を
   持つ。
  3 具体的操作段階 7~12歳
   数や量の保存概念が成立し、可逆的操作も行える。
       4 形式的操作段階 12歳以降
   形式的、抽象的操作が可能になり仮説演繹的思考ができるように
   なる。
  *Wikipediaより
 ⇒これらを見ながら、育児で体験した事例などが出てきました。
 ⇒形式的操作段階はおおよそ6年生くらいからと考えると、例えば
  小学校算数で5年生に出てくる「割合」などの概念は習得するのは
  発達段階的にも難しい可能性があります。算数の「5年生の壁」の
  正体はここにあるのかもしれません。(子どものせいとは限らない
  ことがたくさんあります)

・認知的制約
 発達の初期から学習が有効な領域
   物理的概念、生物学的概念、因果関係、数、言語
   =特権的領域(privileged domains)
    乳幼児はこれらを中心に知識を体系化していく
 ⇒乳幼児の有能さについて、育児での体験や、自分自身の記憶にまで
  遡って様々な話が聞けました。
 
・方略とメタ認知
 乳幼児でさえも、何をすれば学べるのか、メタ認知に基づいて方略を
 考えている。例えば、ビッグバードのおもちゃの場所を覚えるために
 リハーサルらしき行動をとる。

・心の理論(素朴理論)
 子どもたちは様々な素朴理論を持って学校での学習をスタートさせる。
 ⇒素朴理論の中でも特に素朴物理学は誤概念も多い。
 ⇒物体を投げ上げた時にかかる力については誤概念を持っている生徒が
  多い。
 ⇒物理や数学のどの部分で誤概念が起こりやすいかわかっているのなら
  誤概念集のようなものがあると良さそう。

・子どもとコミュニティ
 子どもは、支援(足場かけ)によりうまく学ぶ
 例えば、ヴィゴツキーの最近接領域の考え方
 ⇒近年広く知られているイタリアのレッジョ・エミリア市の教育にも
  ヴィゴツキーの理論が含まれています。

<第一言語の獲得>
・言語と非言語を区別する
・言語を区別する(2ヶ月頃)
・他の音よりも音声を好む(4ヶ月頃)
・第一言語と違う構造の音声は無視するようになる   
・6ヶ月で言葉の特性をいくつか識別
・8ヶ月~10ヶ月で言語学的違いを表象し始める 
⇒第一言語以外の音声は無視するようになるということなどが
 第二言語習得の臨界期説につながっているのでは?
 (関連する論文の紹介などをしました)

<子どもの短期記憶容量の限界>
・短期記憶容量が少ない説
 発達により短期記憶容量や心的スペースが増加する

・短期記憶を効率的に使用する方法が発達していない説
 チャンク化(チャンキング)、シェマ、スキーマなど、情報を
 まとまりで管理できるようになる
⇒なんとなく後者の方がしっくりきますが、2説については今も
 検証が行われています。

このような感じで、ざっくばらんに皆さんの体験などと結びつけながら
「どのように理論を活かしていくのか」について話せたことは大きな収穫です。学習科学の理論は、間違いなく重要な示唆は与えますが、現実の問題に
落とし込むのは難しいのかもしれません。この勉強会では、様々な教育実践者の皆さんと共に、「活かせる理論」にまで変換していくことを目指したいと思っています。

コロナ禍の中で、急激にオンライン講座や教育アプリへの関心も高まりました。ただこれらは玉石混合の状態で、そのことは皆さんも感じているようです。「人はどのように学ぶのか」を知ることは、教育、学習分野での賢い消費者になれる可能性も秘めています。しっかりした評価基準を持つ消費者が増えることで、より良い講座(塾)や教材も増えることでしょう。

次回は9月の後半以降の土曜日の開催を予定しています。

<次回の開催概要>
日時 :2020年9月後半~10月の土曜日 
    10時~11時30分くらい 途中5分休憩
参加費:無料
主催 :中牟田宴子(認知科学研究実践 教育コンテンツ研究開発)
お申込み:sansu.sugaku@gmail.com までご連絡下さい
書籍と範囲:ご参加の方は読んでおいて下さい
「授業を変える~認知心理学のさらなる挑戦~」の中の
 P29~50 第2章「熟達~熟達者と初心者の違いは何か~」
 P51~77 第3章「転移~学んだことを活用するために~」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?