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【しがらみ】

うざったいくらいに、まとわりつく。
邪魔だ。

彼に言われるがままにロングヘアを維持しているだけで、この髪の毛たちになんら情はない。
かれこれ2年ほど我慢し続けている。
付き合うまでは、断然ショート派だったのに。

教室の机に座って両足をプラプラさせては、
2人で夕日に向かってただ喋る、そんな日常のある日。

「昨日の有村ちゃん、相変わらず可愛かったなあ」

「なんか、あたしと真逆のタイプだよね」

「そうか?お前の髪型とか好きだけどな」

「いや、タイプって、性格ね」

「あぁ、でもロングだと清純な感じするじゃん、良いと思うよ」

「清純…ね」

「従順な感じ?なんかいいよね」

彼は、三角の牛乳パックを一気にすする。

夕日に照らされた彼の横顔を眺めては照れていた、あの頃。
今では、眩い夕日さえも鬱陶しい。

彼は知らない、
あたしにお似合いのショートヘア。

なんだか、もったいないことしたなあ。
あたしは枝毛だらけの毛先を弄りながら、深く息を吐き出す。

あれから高校を卒業したあたしは、お金欲しさですぐに仕事に就いた。
仕事場は、東京のこぢんまりとしたキャバクラ。

いつも仕事終わりに、ママの隣で一服するのが至福の時間だ。
「あんた、」
珍しくママが物憂げな顔でこっちを見ている。
あたしのくたびれたショートヘアを、がさつに撫でてくれる。
「あんたの尖ったとこ、あたしは結構好きよ」

そろそろ日が昇る。
あたしはふうっと大きく息を吐いた。
不意に目頭が熱くなる。
きっと、煙のせいにしておこう。

不束者ではございますが、私の未来に清き一票をお願いします。 みなさまからいただいた大切なお金は、やる気アップに繋がる書籍購入に…。