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”やっぺしさ” 郷土芸能を未来に手渡す

Episode 01|第一話

語りつなぎ人:大槌町虎舞協議会 会長 菊池忠彦さん(岩手県上閉伊郡大槌町)
聞き書き人:坪井奈穂美

 大槌町(人口約10,700人)には19もの郷土芸能団体があります。そのひとつひとつに歴史があり、物語があり、そして、祈りの想いを込めた舞や音があり、それらが人から人へと伝えられてきて、今があります。
 何百年も前から、土地に染み付き、人々の生活の隣にありました。

 2011年3月、東日本大震災。

 それまで目の前に当たり前のようにあったものが、突然なくなりました。

 それは地域も同じ。震災後なくなった地域もあります。

 地域とともにあった郷土芸能はなくなったのか。
 道具も衣装も流されました。
 しかし、芸能は残りました。
 人々の中に芸能があったからです。

 「震災で意識が変わった」
大槌町虎舞協議会会長・菊池忠彦(写真右から2人目)さんは言います。

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「それまで地域が核となって、郷土芸能は行われてきたんだよね。でも、地域が流されて、場所ではなく、人のつながりによって芸能は続いてきた」

「震災前はその地域の人が中心になって芸能は行われてきた。だけど、震災後、メンバーの子どもが友だちを連れてくるようになったんだよ。だから、”伝承者”をつくることが大切になった」

 かつてのように地域の芸能に携わるのであれば、芸能は地域の人によって受け継がれてきました。
 しかし、地域にこだわらないということになると、昨年踊っていた子が、今年はお祭りに出ないということはあり得ます。

 あたりまえに続いていくものだと思っていた芸能を続けるためには、自分たちが動かなくてはいけない。

 踊りつづける。

 震災1ヶ月後の2011年4月。
 町内の避難所で、菊池さんたちは虎舞を踊りました。

 もちろん葛藤がありました。
 ”こんなときに踊ってていいのか”

 それでも、若い人たちの
「やっぺしさ」
の言葉を受け、踊りました。

 そのとき、見た方たちの中には、涙を流す方も。
 みなさんが喜んでいました。

「震災で町もなにもかもが変わってしまった。
多くのものが失われてしまった。
がらっと大きく変わった状況の中で、
みんな、失う”前”に戻りたかったんだろうね」

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「郷土芸能は変わらない」

 道具が流されました。
 メンバーも失いました。
 それでも、土地に根付き、人々の心に根付いている芸能は変わらない。

 そう確信できたときでした。

 震災後、地域の外の人にも郷土芸能を見ていただく機会が増え、その人たちから、三陸の芸能の良さを教えられました。

 「当たり前だと思っていたものが、そうではなかった。これからも残すべきもの」

 菊池さんは、それから積極的に動き始めました。

「学校教育の中で、郷土芸能についてお話する機会をつくってもらいました。
子どもたちに町の歴史、各芸能や祭りの歴史について話したり、動画を見せながら日本各地の芸能と大槌の芸能の違いを話したり、頭(かしら)をつくる体験をさせたり。
子どもたちからは質問も出てきて、いつか芸能を思い出すきっかけになってくれればと思っています」

 また、郷土芸能は大槌の観光の柱のひとつに据えられています。

「活動し続けていけば、地域の人にも目を留めてもらえる。
そして、若い人たちに興味をもってもらい、祭りに参加してもらえたら。
10年後、20年後にその成果が出てくれたらいいんだよ」

 そうやって今は少しずつ動いています。
 何百年も続いてきた大槌の芸能が、この先にも続いていくように。
 そして、芸能をきっかけとして、大槌の交流人口が増えてくれたら。

 2020年、大槌まつりは新型コロナウイルスのため、中止となりました。
 若い人たちからは、祭りを続けたい、という声が上がりました。
 責任ある立場としては難しい決断でした。
 でも、やっぱり今回もその「やっぺしさ」の言葉に背中を押され、各芸能団体は各地域で奉納したそうです。
 2021年のお正月も、門打ちは行いませんでしたが、神社や小鎚稲荷での奉納のみ執り行ったそうです。

 芸能に人が集まる。

 自然災害のときには、芸能は人を励まし、コミュニティの再生の力となってきました。
 しかし、人が集まることができない今。
 次につなげるため、また芸能本来の意味を為すため、郷土芸能はそのあり方を模索しています。
 2021年の大槌まつり開催についても検討が始まろうとしています。

 2011年の震災により芸能に対する考え方・見方が変わりました。
 きっと今回のコロナ騒動がおさまったときには、新たな芸能のかたちがここ大槌から生まれてきているはずです。

 菊池さんをはじめ、大槌の芸能に携わる方たちの強い信念が未来を切り拓いていきます。

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*三陸芸能マッピングはこちらからご覧いただけます。
 https://sanrikuarts.com/mapping/

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