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生命の樹−未来を照らすお守りの絨毯−①


現在書斎ギャラリーの2階で展示されている生命の樹の絨毯

◇プロローグ・生命の樹の絨毯に込めた願い

現在、当ギャラリーの2階では「生命の樹」をモチーフとした5枚のマラティア絨毯と4枚のギャッベが展示されている。
2月いっぱい開催する「くらしめぐり Vol.2-愛でる暮らしのつくり方-」でご紹介するもので、先行して展示しているものだ。

デザインは、何本もの枝を生い茂らせた1本の樹に何十羽もの鳥が羽を休めているというもの。
この鳥たちは色も向いている方向もみんなバラバラで、それぞれに個性を感じさせる。

この絨毯において、樹は繁栄・長寿・健康・守護などに対する祈りを意味している。そして鳥は幸せを運んでくる神の遣いを意味する。

なぜ、この絨毯の展示をしようと決めたのか。
これには、私たち三方舎の世界への願いが込められている。

予想できないような現象が起こったこの数年。
混沌とした新時代を迎えた中で、誰もが生きる道を見失いそうになることもあっただろう。だからこそ自分を信じ祈りを込めて向き合える「お守り」のような暮らしの道具を届けたいと思った。

この生命の樹の絨毯は、織り手が使い手へ込めた命への願いが詰まっている。
見知らぬ誰かが誰かの幸せを想う気持ちは、私たちにとっても希望になる。

同じ方を向いていても、ふっくらしていたり細かったりそれぞれに個性のある体型の鳥たち。
現実にはないような色の鳥たちは神のいる世界を思わせる。

ということで、今回はこれから当ギャラリーでご覧頂ける2種類の「生命の樹」の絨毯の話。


◇絨毯に織り込まれる「生命の樹」の意味①ギャッベ

今回当ギャラリーで手にして頂けるのは、当社代表の今井が3年前から世界で探し始めたものだ。
先にもご紹介したが、現在のような混沌した日々の中には希望が必要だ。その希望を、祈りの意味を込めた文様が織り込まれた絨毯に見出した。

イランで織られたギャッベと、トルコ絨毯発祥の地であるアナトリア地方に位置するマラティアの「生命の樹」の絨毯を探し出した。

生命の樹のギャッベ
生命の樹のマラティア絨毯


生命の樹の意味といえばギャッベの文様として織り込まれるものが日本では最も有名かと思う。

ギャッベはイランの遊牧民・カシュガイ族が天然素材から生み出す手織りの絨毯である。羊の毛を糸にし草木の染料で染め、織り機に張った綿の縦糸に1本1本結びつけて織り上げる。
カシュガイ族の女性に何百年も前から伝わる手仕事だ。

ギャッベの上で糸を紡ぐ織子さん

家族で囲む食卓やベッド・部屋の仕切りや玄関など、実に様々な暮らしの道具として使われている。

カシュガイ族が遊牧するのはザクロス山脈一帯である。高山地帯であり、植物も強いものしか育たない過酷な環境で暮らしている。

そんな環境の中でも大地にしっかりと根を張り成長する木がある。それがギャッベに織り込まれる生命の樹の象徴となった「糸杉」だ。

彼らはこの糸杉を「聖樹」として、健康・長寿・守護の意味を込め暮らしの道具に織り込んだ。

推測するに20mかないくらいの高さだろうか

織り込まれるデザインは、ペルシャ絨毯やトルコ絨毯のようにある程度型が決まっているものではなく、織子さんの感性で自由に織られているので無数に存在する。
つまり意味だけが受け継がれてきたのだ。


フィールドの中央に1本だったり、家族の始まりである夫婦を思わせる2本だったり、家庭円満や子孫繁栄の意味を持つ鹿などの小動物の文様と一緒にリズム良く織り込まれたり。
樹の中には、幸せを意味する鳥や、美しさを意味する花なども時折織り込まれ、「ギャッベを一緒に使う相手にどうあって欲しいか」という生命の樹の本来持つ意味以上の願いが込められたものも多い。

このデザインから、私たち使い手は見知らぬ織子の思いを想像し、大切な人の命への願いを重ねる。


◇絨毯に織り込まれる「生命の樹」の意味② マラティア絨毯

樹の幹の中央に両手を天に広げる人の形が見える。
枝先には美しい花々が咲き誇り、未来への希望を感じさせる。


マラティア絨毯の生命の樹も、ギャッベと同じ意味を持つと考えるのが一般的である。
ギャッベとの大きな違いは、絨毯の希少性とデザインに見られる。

羊はイメージ画像

まず希少性について。
マラティアのあるユーフラテス川の上流部には肥沃な大地が広がっている。
マラティア絨毯は、その大地で生まれた子羊の一番最初に刈り込む毛を使用する。期間限定の希少な毛なので大量生産は難しく、それを素材とするマラティア絨毯自体が希少となる。

羊の毛は大人の毛でも十分に弾力があり艶やかだ。子羊の毛はそれに比べてさらに柔らかく、人間の手に吸い付くようにしっとりとしている。
素材の特性として軽さもあるため、厚みがあってもコンパクトにまとめやすい。

次にデザインについて。
ギャッベは1枚の中にストーリーを感じさせたり、樹が何か別のものに例えられたり使い手の「過去・未来」など記憶に対して訴えてくるが、マラティア絨毯はモチーフの意味そのものをダイレクトに伝えてくる。

また、背景は赤や青・緑といった単色で織られており、樹そのものの美しさが使い手に伝わる。色彩心理学の観点で捉えると色にも意味があるので、それを組み合わせると更に深い意味になる。

例えば、
赤→情熱・活力・気分の高揚
青→冷静・誠実・集中力を高める・開放感
  ※絨毯においては「水など豊富な資源」の意味もある
緑→リラックス・疲労回復
などの意味があり、現在の自分の内面に訴える力を持たせることができる。

もちろん、マラティアと日本では物事の捉え方やそれに伴う価値観は様々に違う。
その違いを前提として、自分なりの解釈を絨毯に持たせて使ってほしいと願う。

また、今回はギャッベ・マラティア絨毯とも、一人・二人で使うのに丁度いいサイズを展示している。
例えば、玄関や座布団がわりに使うのにお勧めな60cm幅、寝室に敷いてリラックスしたいときにゴロゴロするのにお勧めな120幅などである。

いずれもシンプルなデザインなので、自分がその絨毯を手にすることでどんな時間を過ごしたいのか、そんな状態になりたいのかを想像しながらぜひ触れてみてほしい。


◇エピローグ・生命の樹の始まり

ペルシャ絨毯・トルコ絨毯にも生命の樹の文様は好んで織り込まれる。樹の種類は明確になっていないが、豊かな枝葉に美しい花実がたわわに実るデザインだ。絨毯の中に豊穣の実を織り込むことで、永遠に尽きない実りを願ったことが伺える。

生命の樹は旧約聖書に登場する。
元々は「知恵の樹」とともに楽園に植えられていたが、アダムとイブが知恵の樹の実を食べて楽園を追放されたことにより、「人間がもう樹に近づけないように」と神によって天界で守られたという話がある。

生命を司る「神の木」から永遠の生命の象徴として世界に広まった中で、ギャッベのようにその地域の特性と合わせて新たな意味を持ったのが「生命の樹」の特徴と言えるだろう。

世界で起こる様々な事象に心が揺り動かされる日々が続く。
こんなときだからこそ、誰もが大地に根を張り、真っ直ぐに天に枝を伸ばし美しく咲き誇る大木のように生きてほしい。

私たちが紹介する生命の樹の絨毯が、その大地を照らすお守りになってくれたらと願う。



「NIIGATAくらしめぐり Vol.2-愛でる暮らしのつくり方-」
詳細はこちらからご確認いただけます





執筆者/学芸員 尾崎美幸(三方舎)
《略歴》
新潟国際情報大学卒
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育学部卒
写真家として活動
2007年 東京自由が丘のギャラリーにて「この素晴らしき世界展」出品
2012年 個展 よりそい 新潟西区
2018年 個展 ギャラリーHaRu 高知市
2019年 個展 ギャラリー喫茶556 四万十町
アートギャラリーのらごや(新潟市北区)
T-Base-Life(新潟市中央区) など様々なギャラリーでの展示多数
その他
・新潟市西区自治協議会 
写真家の活動とは別に執筆活動や地域づくりの活動に多数参加。
地域紹介を目的とした冊子「まちめぐり」に撮影で参加。
NPOにて執筆活動
2019年より新たに活動の場を広げるべく三方舎入社販売やギャラリーのキュレーターを主な仕事とする。

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