見出し画像

北欧雑貨の知られざる名店−ノ縞屋①


◇プロローグ・路地へ誘い込む看板


新潟市の中心部には昔ながらの街並みが残る地域がいくつかある。
今回お邪魔した「ノ縞屋」も、新潟市の中心部ではあるがスッと見落としてしまいそうな場所にひっそりと居を構えている。

それを見つける手がかりはシンプルな看板。
麻布のような真っ白な布地に、インクが途切れかけたような万年筆の筆先でさっと「ノ縞屋」と載せられている。
キャッチフレーズというよりも枕詞のようなニュアンスでつけられた明朝体の言葉と相まって、なんとも味わいのある看板なのだ。

初めてノ縞屋を訪れた時、まずこの看板に感動したことを鮮明に覚えている。

「モノを見つけ、人と出会う」
この枕詞の通り、私はこの後店主の野島剛氏の言葉から、多くの出会いだったり現在自分が接している人やもののストーリーを知る機会を頂くことになった。

ということで今回のブログは、現地で直接買い付けている北欧雑貨と出会えるお店「ノ縞屋」について。

カンガルーポーというお花。ノ縞屋に飾られている花は店主の野島氏が生ける。
野島氏の花好きを知っているお客様からお花の差し入れもあるとか。


◇ノ縞屋のはじまり


ノ縞屋と三方舎の歴史は長い。
なんと言ったって始まりから関わっているのだから。

野島氏がノ縞屋の前身を立ち上げたのは2013年である。
野島氏の地元である三条市で、長年勤めていた製造業をその前年に退職し何を仕事にしようか考えていた時期がある。

ただ漠然と「何の仕事に就こうか」と考えていたのではなく、自分の強みは何だろうか?と自身と向き合うことから始まったという。

そこで出てきた彼なりの答えが「英語に強い・美術に造詣がある・海外の暮らしを観光ではない深い部分で知っている」の3点だった。
(野島氏は大学卒業後にバックパッカーをしながら世界を巡った経験がある。)
ちょうどその頃ドイツで開催されていた国際見本市へ足を運んだ。

世界の商材が集まる見本市で海外のものに触れ、改めて自分の暮らしている日本の美しさであったり素晴らしさを実感した。

「この体験や気持ちを日本で伝えたい。」

それから主に北欧の雑貨を取り扱う場所づくりを始めた。
ノ縞屋の始まりである。
北欧の雑貨をメイン商材に据えたのは、北欧の国々の雑貨が持つ雰囲気が、静かながらもしっかりと自己の存在を主張する日本の雰囲気に通じ、日本の暮らしに合うと感じたからだ。

そしてこの始まりに立ち会ったのが、弊社の代表・今井正人だ。


◇ほぼほぼ同期の桜−ノ縞屋と三方舎


野島氏と今井の始まりは2007年までさかのぼる。
当時まだ製造業に従事していた野島氏は、出張先の長野で天然素材の手織絨毯に出会う。新潟市秋葉区の新津にあるインテリアショップ「ボー・デコール」が現地買付けした、イランの遊牧民が作る「ギャッベ」だ。

このギャッベを、当時ボー・デコールに所属していた今井が全国のインテリアショップを地道に回りながら紹介していた。
野島氏が出会ったギャッベも今井がそのインテリアショップに紹介したものだった。

「意外と地元に近い所でこんなことをしてる店がある」と野島氏の心に残った。

その時の出会ったギャッベ。
一見シンプルに見えるが、グレイの濃淡だけでなく所々に茶色の毛が入り深みのある美しさを見せる。
その上には、ノ縞屋オリジナルの無垢材のお盆に店主自ら入れてくれたお茶。

それから数年が経ち、野島氏は前職を退職した。
偶然にもその前年に今井が独立し三方舎を立ち上げていた。
「あのギャッベを扱っていた人が独立している。参考に話を聞きに行こう」と、現在の三方舎書斎ギャラリーを訪れたのが今井との出会いとなった。

野島氏はその後、度々三方舎を訪れ今井と交流を続けている。


◇ノ縞屋、スペースを持つ


2013年に北欧の雑貨を扱う商売を「tac Japan」の屋号で始めた。
「ありがとう、日本」の意味で、あえて自国とは違う文化のものを見ることで自国の良さを知ってもらいたいという願いを込めた。

2年ほどは店舗を持たず、雑貨の展示を事業の軸にして東日本各地を回った。そこで様々な日本の地域を見ることで、改めて日本の空間と北欧の雑貨の相性の良さを感じたという。「日本の空間」といっても格式の高い所ではなく、昭和時代に日本各地でどこでも見られたような場所だ。

軋む木の床に6畳前後のスペース、狭くて急な階段、職人の手が入った漆喰の壁、昭和ガラス…。日本独特の庶民の暮らしを思わせるスペースに、職人の一人一人が手作りする北欧の雑貨が優しく馴染む。

懐かしさを漂わせるガラス窓。
その向こうには北欧の若手職人が一つ一つ手作りした陶器の作品が並んでいる。


狭く急な階段。
軋んだ音をたてる薄めの板がなんともいえない味わいを感じさせる。


そんな空間で自分の勧める北欧雑貨を伝えていきたいと強く願うようになった矢先、今のスペースに出会う。このスペースが三方舎にとても縁のある場所だった。

実はこのスペース、三方舎オリジナルのオーダーメイド絨毯・GOSHIMA絨毯のデザイナー小林あかね氏(BRIDGE代表・tricollage店主)が活動の拠点としていた場所だったのだ。野島氏は三方舎で小林氏と出会っておりその縁は深い。

小林氏が活動拠点を猪苗代に移すタイミングと、野島氏が店舗を構えたいと考えたタイミングが重なり、小林氏からこの場を受け継ぐに至った。

写真左奥:野島氏が独学で習得した生花
写真右:厚みにこだわった天板と錆具合にこだわった脚のオーダーテーブル


◇看板の意味を推理してみる


固定の場所を持つことで、tac Japanの屋号を「ノ縞屋」に変更した。
2015年3月21日、ノ縞屋の誕生である。

この屋号、野島氏の活動だからノシマ繋がりだけで「ノ縞」とつけているのではない。ノ縞屋の立ち上げから深く関わっている三方舎が手がけるGOSHIMA絨毯を漢字表記すると「伍縞絨毯」なことから、この「縞」の字を使っている。

更に、私が初めて見た時に感動したノ縞屋の看板は小林氏がデザインしたものだった。

小林あかね氏のデザイン

一つの文字の中に太い線と細い線が混在し、時には途切れている。

感覚的な表現で申し訳ないのだが、この線を持った3文字の中に私は「文化という種」を運ぶ風を感じている。

日本から遠く離れた場所から何か素敵なモノを風によって運んできて、そこに落として、去っていく。
看板にちょこんとつけられた矢印が風見鶏のようでもある。(ブログ冒頭の写真を参照)

例えるなら野島氏が「風」で、ノ縞屋で紹介する北欧の雑貨は「素敵なモノ」。それを落とされる場所が「ノ縞屋」なのだ。
ノ縞屋には素敵なモノを見に多くの人が集まり、素敵なモノを通じて知らない人同士が出会ってつながっていく。


「モノを見つけ、人と出会う」

まさに、現在はそんな場所になっている。


「リラックスできる場所にしたい」
野島氏のその思いが通じているのか、ここを訪れる人の表情はみんなとても柔らかい


◇エピローグ・野島氏の闘い


ノ縞屋を今の場所にオープンして今年で7年。
前身のtac Japanを含めれば9年となった。

ノ縞屋を立ち上げた頃、その存在はほとんどの人に知られていなかった。それが、続けることで徐々に認知されていき現在は訪れる人が途切れない人気のギャラリーとなった。

オープンしてから2年ほどは1週間お客様の来ない日が何度もあった。
この先続けられるか不安で仕方なくなるときもあったというが、そういう時期を乗り越えて多くの人に愛される今がある。

「人が来てくれるだけで有り難いです」
と、マスクの下で野島氏は静かに笑った。

また、認知されるために「続けること」を諦めなかった。続けていればいずれ誰かの目に留まり自然と広がっていく。その他の広報といえばSNSで情報発信した程度でおさめている。

「とにかく場所がいいから、そんないい場所に自分が『良い』と思えるものを置いて続けていたら、自然と人が来てくれるようになった。」

野島氏がいう通り、2015年のオープン当時は野島氏自身が北欧で買い付けた雑貨を展示販売するのみのギャラリーだったが、その1年半後にはノ縞屋のスペースで展示をしたいと申し出る作家さんが現れた。それから徐々に作家さんによる企画展の開催ペースが早まっていき、現在では自主開催と合わせると年間6本の企画展を開催している。


ノ縞屋店主:野島剛氏


野島氏は、無理をしない。

自分にしっかりと向き合った過去があるからこそ、自分の性格や好きなことを押し殺して無理をすることの無意味さを知っているからだ。
自分に無理をさせないこと、自分の好きなものに囲まれること、それを武器に生きていくこと。

誰もが気づいていて、実際にできない生き方のように思う。
そこに野島氏の人間的な強さを垣間見る。

※1月7日(土)から三方舎書斎ギャラリー(離れ)にて、「ノ縞屋展」が始まります。いつものとは違う真っ白な天井と床に囲まれた空間を、野島氏が北欧の雑貨でどんな風に演出するのか、どんな風に心地の良い空間を作っていくのか。
一味違う「ノ縞屋」を、ぜひ大勢の方に体感して頂ければ幸いです。
ノ縞屋展の詳細はHP・SNSにて随時お知らせいたします。
また、次回のブログでは野島氏が実際に買い付けを行う際に意識していることなどをご紹介いたします。
どうぞお楽しみに!



執筆者/学芸員 尾崎美幸(三方舎)
《略歴》
新潟国際情報大学卒
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育学部卒
写真家として活動
2007年 東京自由が丘のギャラリーにて「この素晴らしき世界展」出品
2012年 個展 よりそい 新潟西区
2018年 個展 ギャラリーHaRu 高知市
2019年 個展 ギャラリー喫茶556 四万十町
アートギャラリーのらごや(新潟市北区)
T-Base-Life(新潟市中央区) など様々なギャラリーでの展示多数
その他
・新潟市西区自治協議会 
写真家の活動とは別に執筆活動や地域づくりの活動に多数参加。
地域紹介を目的とした冊子「まちめぐり」に撮影で参加。
NPOにて執筆活動
2019年より新たに活動の場を広げるべく三方舎入社販売やギャラリーのキュレーターを主な仕事とする。

この記事が参加している募集

このデザインが好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?